<Days 13>

　私は前から少し考えていた事を口に乗せた。

「……あの……私のこと嫌いですか？」

　このエルンテーゼに来てから知り合った褐色肌のエルフの少女の不機嫌そうな顔を見ながら、私は思わず問いかけた。

「…………」

　その褐色の少女は、そんな私の事をまだどこか疑いのある瞳でじっと見つめる。

「あなた……私を捕まえに来たの？」

　唐突に彼女の口から出てきた言葉に思わず私はえ？と目を丸くした。
　全く予想外のそんな言葉を発した彼女は明らかに私からじりじりと距離をとり、警戒しているのが判った。

「困ったな……」

　私は髪の毛を指で弄りながら呟く。
　褐色の少女のエキゾチックな容姿に心惹かれた私は、彼女とこの世界ではまだ殆どいない友達になりたかっただけなのだ。
　だからそんな風に警戒されるとは全く考えてもいなかった。
　私は友達からもよく褒められる、その自慢のカールした髪を弄っていると、考えがまとまる気がするのだった。
　むろんただの思い込みだとは思うのだけど。
　私は髪の毛を弄るのをやめるとまだ疑いのある曇った表情を浮かべる彼女に近づいた。

「私は別にあなたのことを捕まえようと思った訳じゃ無いよ？」

　そう言って私はゆっくりと彼女に向かって手を伸ばす。
　私が手を伸ばしたのを見て彼女はびくっと小さくその細いしなやかな身体を震わせる。
　彼女のその様子を見て私は小さくため息をついた。

「ただ握手をしようと思っただけなんだけどな……」

　私は伸ばした手を引き戻して腰に手を当てた。

「あれ？これは……」

　丁度ポケットに触れた手はそこに入っている丸い物の存在を私に思い出させた。
　ポケットからその小さな包みを二つ取り出すとその内の一つを掌に載せるとその鮮やかな包み紙を取り去る。　そしてそこから出てきた丸いキャンディーをそのまま口に入れて微笑むともう一つを彼女に向かって放り投げる。
　自分の方に投げられた鮮やかな包みのそれを彼女は慌ててキャッチする。
　彼女は私の顔と手元にある包み紙にくるまれたそれを何度か見比べ、一考した後その包みを開けた。
　そして口の中一杯に広がる甘みに、驚きの表情を浮かべた後小さく笑みを浮かべたのだった。
　私はそれを見ると彼女にゆっくり近づき、その手を差し出した。
　しばらくどうするか迷っていた褐色の少女であったが、ビクンとそのその腕を包む服がどうすべきか迷い小さく動くだけだった。

「ははっ、まだ手を取ってくれるのは先、かな」

　私はそう言ってばつが悪そうにその手を引っ込めると頭を掻いた。
　その手の動きを少女の視線はどこか残念そうに小さく追ったのに気が付くと言葉を続けた。
　
「じゃあ今日は取りあえず名前だけでも教えて貰えない……かな？」

　私のその言葉に、彼女は、思わずどうした物かと思案げに黙り込む

「………」

　少しの空白の後、ゆっくりと彼女は小さく口を開いた。

「な、名前……」
「私の名前？前にも言ったけど、祀……、古都祀だよ」
「まつ……り……？」

　聞き返した彼女に私は小さく頷いた。
　噛みしめる様に自分の名前を呟く彼女にどこか抱きしめたくなる衝動に私は駆られるが、それを必死に理性で繋ぎ止める。
　その私の姿を見て再び彼女は口をゆっくりと開いた。

「…………シルマリィ……シルマリィ＝ルゥ……」

　彼女の小さく動いた口からは辛うじて聞こえる小さな声で彼女は自分の名前を述べ私に自分の名前を教えてくれたのだった。
　その言葉を聞いた私の目尻から雫が地面に向かいゆっくりと落ちたのだった。

「……仲良しになるにはまだまだ先みたいだけど、少しだけ近づくことができた……かな？」

　私はその事に嬉しくなるのだった。


TobeContinued……