霧が掛かってるかの様な頭を持ち上げ、鉛の様に重たくなってる身体を引きずる様にして目が覚めた。
そんな状態で起きたくはないが、見慣れない景色と覚えてる最後の記憶を引っ張り出すとそうも言ってられない。
辺りを警戒しながら、ゆっくりと身体を起こし、状況を把握する。
ここが何処だかは解らないが、部屋というよりは小屋と言ったところだろうか。
そのほぼ真ん中に位置する場所にあるテーブルの上で寝かされていたようだ。
身体が重いのがその所為かどうかは解らないが、どうせ連れてきたのだったら、もう少しまともな所に寝かせてほしいものだ。
取りあえず、テーブルの上から降りようとすると、目の前にあるドアがゆっくりと開いた。

「おや、目が覚めましたか。まぁ、悪くないタイミングですね」

そんな事を言いながら、白猫がひょいとテーブルの上に飛び乗ってくる。
探し続けた白猫が自分の目の前にいるのは嬉しいが、この状況では素直に喜べない。

「失われた時代の技術で創られたは正に芸術品と呼ぶに相応しいのですが、残念な事に貴方は壊れているみたいです。私でしたら貴方を直す事が可能ですが、如何致しますか？一応は貴方の意見を尊重しようと思うのですが」

「いきなり何なの。一方的に言いたいことだけ言って。まずはここが何処なのか、貴方が誰なのか、あの白いローブは何処に行ったのか、そういう事が先じゃないの」

白猫を睨みつけながら、出来るだけ低い声で言ってみるも、白猫は面倒臭そうな表情を作り、口を開いた。

「ここは川辺にあった小屋で、貴方を連れてきた白いローブが私です。貴方があまりにも五月蠅かったので眠らせましたが、芸術品を壊したままにしておくのは私の義に反します。ですから貴方に聞いているのです。直して暫く活動を続けるか、そのまま止まるか」

「止まるって・・そんな事、いきなり言われても困るわ。それに、貴方の事を信用出来ないし」

突然の死を宣告され、困惑しながらも、なんとか平静を装う。

「ふむ、まぁ、無難な回答ですね」

しれっとした顔で白猫は言葉を続ける。

「本来、貴方があの程度相手に傷を負うという事は有り得ません。数万の生きた猫を圧縮し、構成された身体です。質量で考えても、ちょっとやそっとじゃ傷付かない事くらい、想像出来るでしょう。魔力も同様、その身体に眠っているのに動力分の魔力しか流れていない。おそらく何かしらのエラーが生じてバイパスが切断されてるのでしょう」

「なんで…なんでそんな事が解るのよ！まるで見てきたかのように！・・・ええそうよ。永久的に稼働する魔造体の精製。その為に何万の猫を犠牲にして創られたのが私よ。なのに私は・・・だから人間なんて！」

「私は貴方の事情なんて知りませんし、知った事ではないのですよ。人間を憎んでいるのでしたら、滅ぼしてしまえば良いじゃないですか。少なくとも、貴方には力があります。まぁ、本来の力全てを出し切っても根絶やしに出来るとは思いませんがね」

暫く俯いたまま頭が冷えるのを待ち、落ち着いた所で正面に座っている白猫を睨み付け、静かに呟く。

「貴方、一体何なのよ」

「魔法使い、真理の探求者です」

そういう事を聞いたんじゃないんだけどと項垂れていると、先ほどの質問の問いに答えてない事にイラついているのか、段々と白猫が不機嫌な表情になっていく。

「貴方が選べる選択肢は三つ、大人しく私に直されるか、無理矢理直されるか、破壊された後に作り直されるかです」

三つ目の選択肢に背筋に悪寒が走る。
どれを選ぼうと選ばなかろうと、例え逃げ出そうと、この白猫は実行に移すだろう。
そして、逃げ出した時の選択肢が三つ目の破壊を刺しているのだろう。
何をしたい訳ではないが、死にたい訳でもない。
ただ、一つ問題もある。

「もし、大人しく直されるを選択した場合。私の自我はどうなるの？このままなのか、別人になってしまうのか」

「貴方は今までの事を記憶していますか？いつからかの過去の記憶がないというのであれば、閉ざされた部分に記憶と人格が押し込められてるかもしれません。そういう場合もあります。ですが、そうでないというのであれば、目覚めても貴方は貴方のまま、丈夫な肉体と、今まで押し込められた魔力を得るだけでしょうね」

「そう、なら問題はないわ。私が私でいられるのなら、私は生きたい。まだ死にたくない」

そうですかと白猫が呟くと後ろに跳躍し、テーブルの下に消えたと同時に白いローブが顔を出す。

「しかし、ゴーレムが生きたい、死にたくないとは笑わせる。まぁ、宣言通り直してはやるがな」

被っていたフードがはらりと後ろに落ち、青い目と、金色の髪の、綺麗な顔が現れる

「うそ・・もしかして女の子なの？」

「貴様！俺様の何処を見て女という！！不愉快だ、その口閉ざしてろ」

伸びてきた手に口を塞がれ、言葉を聞き終わるか終らないかの辺りで睡魔に襲われ、意識を失う。

「さて、喧しいのも黙らせたし、久々に弄り回す魔法の芸術品だ。楽しませてもらうゾ」

小走りにその場を走って行く。
しばらくするとアイスを片手に戻ってきた。ナズナよりだいぶ早いので溶けていない。

深く考えずにみんなにアイスを配っている。