俺の師は破天荒だったが、それでも慕いたいと思える位には此方を気遣ってくれた。
まだ片手で数えられる歳だった俺を気遣い、起伏の激しい道は避けるか休憩を多く入れてくれたり、時には遊んでくれた。
兄弟や年の近い者も居なかった俺にとって師は、姉のような母のような……とにかく、何とも形容し難い存在になっていた。

俺が12になった時だった。
俺は師の教えを見る見る内に吸収し、一人で何でも出来るようになった頃だった。

「御舟、」
「はいっ、先生。 何ですか？」
「今週限りでお別れね」
「……え？」

月を見ながらそう言った師、俺は固まった。
何で、どうして……同じような言葉がぐるぐると脳内を駆け巡る。

「私、本当はね？ 御舟に会う前から戻らなければと思っていたの」
「…ど、何処に……？」
「………私の、世界に。 私が元々住んでいた世界に」

今まで聞いた事無い位のか細い声で、師はそう繰り返した。
月を見ながらそう言う師は、まるで月からやって来た稀人だった気がしてきて、今にも消えそうで…。

「この世界に、私は干渉し過ぎてしまった。 御舟を拾った時から、それは加速して……どうでも良くなってきた」
「なら…」
「でも、向こうでは友達や仲間達が待っている。 向こうはどれだけの時間が経っているのか分からないから、帰らないと」

手だけが伸びて来て、くしゃりと俺の頭を撫でた。

師は、もうすぐ消える…。
それが、あの日最後に交わした言葉だった。

そう言うと、御舟さんと愛知の巨人からラーフィーは距離を大きく離れた。

少し間を空けて、

最初こそ真剣に聞きながら考えていたものの、専門用語が多すぎたらしい、困った顔で御舟をみたが、紙の存在に気づき、そちらに目をうつす。
説明が終わると、

少年には聞こえなかったのか、慣れてるのか相手にはしなかった。

切れた紙をみながら

そしてその刀に指を近づけようとして、

エンブリオにあっさり止められた。

少年はちょっとエンブリオの方をみたがすぐに真剣に紙を読み始める。

にやりと笑ったように見えたが、影のようなのでわからない。

そして少年の方に一目やると。

真剣に紙をみている少年。

いいながら何かに気づいたようで、慌てて付け足す。