(※引き続き番外編です。
　 番外編の番外編みたいな感じに……
　 大丈夫か？
　 問題ない。)

「あーーーーっ！もう！」
睦美さんがとうとう我慢の限界になったらしい。
猛暑の夏、
じりじり照りつける日の日差しとあいまって、
容赦なく苛立ちを増長してゆく。
まぁ、よくもった方だろうと思う。
だが——
「大丈夫、頑張れ頑張れ、
　やれば出来るわ、
　私だって汗水たらして一緒に頑張ってるんだもの、
　気持ちの問題よ。
　ほら、だから頑張って。
　後３時間もあれば終わるわ。
　多分ね。」
「その投げっぱなしジャーマンみたいな応援の仕方はどうなんだよ！
　いや、まぁ手伝ってくれるのはありがたいけどさ、
　流石に限界も限界だよ。
　なんで空調ぶっこわれるかな。
　こんなに暑い日に。
　そして、魅月、
　あんた一切汗かいてないだろうに！
　それどころか涼しげな顔して、
　何かやってるだろ！
　絶対！」
「えてしてついてない時なんてそんなものよ。
　それにしても酷いわ。
　ただ見えないだけなのに。
　何もせずに同じ暑さを感じてるけど、
　余裕の表情がそう見えさせているだけよ？
　気のせい気のせい。
　霊を呼び込んで私の周囲にだけ冷気が来るようになんてしてないわ。
　だから、ほら、手を動かして。」
「やっぱりしてるんじゃない！
　しかも私が真似出来ない方法って！
　あーもー全く……！」
「怒ると余計に暑くなるわよ？」
「誰のせいだよ！
　あーもう、
　確かに怒る元気もなくなってきた。
　……大人しく仕事しよう……
　しっかし、いつになっても書類関係の仕事は慣れないな……」
「頭脳労働は睦美さん苦手だものねぇ。
　苦手でも最低限はこなせる辺りは流石だけど。」
「咲良に叩き込まれたんだよ、
　その辺りは……
　くそ……この仕事が終わったらぱーっとやりたい、
　出来れば涼しくなるような……」
「そうねぇ。
　とはいっても、この分だと間違いなく遅くなりそうよ。
　となればいける場所も限られてるんじゃないかしら。」
どうせこんな状態でやっても、
集中なんて出来ないだろうので、
適当に睦美さんの言葉を返す。
気持ちはわからないではないので、
これで多少気がまぎれるなら結果的に効率もいいと思う。
それにしても、
この仕事が終わった後、か。
何か餌でも用意すれば食いついて
仕事に集中するかと思って、
少し考えてみる。
とはいっても、
そんな妙案がいつも思いつくとは限らない。
でも……まぁ、
私にとっては片手間で出来る仕事だし、
それで睦美さんの効率があがるなら考えてみる価値はあるだろう。
ああでもない、こうでもないと考え、
ふと、思い出す。
「——肝試しでもする？」
「突然何言って……
　あー……
　でも確かに涼しくはなるかもな。
　間違いなく出るだろうし。」
「そうそう。
　それにこないだのは危険すぎて、
　結局肝試しにならなかったじゃない。
　だから今回は安全なの。
　普通の肝試し。
　まぁ、
　何も事件とかがおきてない場所なら大丈夫でしょ。」
「そういって、
　変なの呼び起こしそうなのが魅月だけどな。
　ま、でも、確かにあの時は不完全燃焼だったし、
　リベンジって意味合いでもいいかもしれないか。
　でも、
　どこに肝試しに行くんだよ。
　真白はいいとして——
　それに……咲良も呼びたいけど、
　あいつだって暇とは限らないだろう？」
「確認しないでも１２０％来る方法があるわよ？」
「……え。いや、それでも外せない用事とか……」
「問題ないわ。
　どんな仕事でも間違いなく来るから。
　そのためには睦美さんにしか出来ない事してもらう必要あるけど。
　大丈夫よね？」
「何か、凄い嫌な予感がするんだけど？
　まぁ、いいや。
　それで来るならやってやるよ。
　で、どうすればいい？」
どうせ反抗してもやらせるんだろうといいたげに、
睦美さんは私を見てくる。
失敬な。
しなかったら私が睦美さんの名前を借りてやるだけだというのに。
まぁ、ともあれ、
こうして提案が受け入れられたようでよかった。
仕事を集中して終わらせれるわね。
「とりあえず携帯出してくれる？」
「ん？
　ああ、分かった。
　で、電話をかければいいのかい？」
「メールでいいわ。
　で、今から言うとおりに入力してくれる？」
「ん。……文章お願い。」
「タイトルは連絡。
　本文で、
　今夜仕事終わりに魅月と肝試しにいくけど来るか？
　別に来なくても私達で楽しむから気にしなくていいぞ。
　とでも。」
私の言葉に不意に睦美さんの動きがぴたりと止まる。
どうしたのかしら？
と私は笑顔を浮かべて睦美さんの顔を覗き込む。
「……なんかものすっげぇ嫌な予感するんだけど。
　なんというか、私の命の危機的な何かが。」
「気のせいよ、
　変な睦美さん。
　普通の文章じゃない。」
「ほう、この文章、
　本当に普通の文章だと魅月はいうわけだ。
　本当に普通の文章でいいんだろうな？」
「……。」
「……。」
「普通の文章よ。
　普通に誤解される文章。」
「やっぱり普通の文章じゃないじゃないか！
　というか誤解ってどう誤解されるんだ！」
「……何も問題ないわ。」
「そういう時はえてして問題だらけだよ、馬鹿野郎。
　とはいっても他に代案とかないしなぁ。
　結局飲まざるをえない、と。
　全くもう。
　後できちんとフォロー……
　は、どっちでもいいや。
　フォローしろっていったら状況悪化させそうでもあるし。」
「酷い話ね。」
「お前が酷いんだよ！
　全く……
　ま、いいや。
　送信っと、じゃ、仕事の残り集中して片付けるか。
　早く終わらせないと。」
「そうね。もう一頑張りと行きましょ？」
あーもう、なんか疲れたといいつつ、
仕事に集中する睦美さんをみてクスリと笑って、
私も仕事に集中する。
まぁ、この分だと予定よりも一時間くらいは早く終われる気がする。
しかし……
全く私のどこが酷いというのか。
私はいつだって優しいつもりなのだけど。

——ともあれ、すぐに仕事を終わらせると、
いつの間にか咲良さんからメールがきていた。
内容は、私もいきます！すぐに行きます！
ちょうど良い場所があるので調べたから、
近くのファミレスで晩御飯がてら待ち合わせしましょう！
といった所である。
ちなみに、睦美さんのほうをみると、
微妙な表情をした後、
私の方をみて困惑した様子で私の方をみてきた。
「……どうかしたの？
　何か妙なメールでも入ってたかしら？」
まぁ、
おそらくは咲良さんからのメールをみての反応だと思って聞いてみると、
案の定正解だった。
「あー、いや、
　咲良から返信が来たんだけど、
　なんか、どう反応していいのか……」
「見せて貰っても？」
折角なので見せてもらおうとすると、
快く見せてくれたので遠慮なく見てみると、
「ええと……」
「ほらな、そういう顔になるだろう？」
なんというか、
私と一緒に行く事がずるいとか、
私も絶対いくから、
何をさておいても行くから！
という事を力説していた。
想定にはあったけれど、
相変わらず斜め上に突っ切っているあたり、
咲良さんは侮れないと思う。
「まぁ、合流してさっさといきましょうか。
　廃校って中々雰囲気ありそうだし。」
「うわ、スルーしやがった！
　完全にフォローする気ゼロだろ！
　分かってたけど！
　あーもー……
　真白もちゃんとよんどけよー？」
「もちろん。」
とはいっても、
放置するしか対策はないので、
睦美さんには頑張ってもらうとして、
真白さんへ連絡しつつ、
待ち合わせ場所へ。
すると、
真っ先に咲良さんが来ていた辺り、
やはりさっきのメールをして速攻でやる事をすませて、
遅れまい、逃がすまいと先行したのだろう。
なんというか——
「一番乗りとは恐ろしい執念ね……」
「執念とか人聞き悪い！？
　せめて……
　ええと、その……
　愛とか？」
「……恐ろしい愛ね。」
「それほどでも。」
「いや、褒めてねーだろ。
　いや、睨むな。
　あのメールも魅月の指示で出しただけだからな？」
「良くわかりませんが、
　楽しくやりましょうよ。
　ぎすぎすしていたら楽しくないですよ？」
「……そうね。真白さんのいうとおり、
　喧嘩よりも今は目先の楽しみを優先させましょ。
　別にいつもの事じゃない。」
「魅月さんは反省した方がいいと思いますけどね。」
いつものごとく雑談をすませて、
ファミレスの席に座り料理を注文したところで、
本題へと入る事にする。
ずっと雑談していてもいいのだが、
今回の集まりの本題はこの後の事である。
「で、まぁ、話を変えて本題に入りたいんだけど、
　今回行く場所ってどんな所なの？」
「あ。じゃあ、報告するね。
　目的地までは私の車でいきます。
　これが住所で、
　地図だとこの辺り。
　で、これが写真ね。
　ちなみに事前に許可は得てるので、
　もし何かあったとしても問題ないよ。
　危険度に関しては、
　何回か幽霊を見ただの、
　心霊写真がとれただのはあるけど、
　それ以上の報告はなし。
　比較的安全だと思う。
　古い資料もあたってみたけど、
　特にこれといって特筆事項もないしね。
　ただ、気になるとすれば一点だけかなぁ。」
「気になる点？
　別に見た感じも聞いた感じも何もなさそうなんだけど、
　真白は何か感じるかい？」
「えーと……
　大して何も感じませんね。
　特に危険はないと思いますよ。
　現地にいってみないと分かりませんけど。
　だから、気になる点といわれても、
　私には正直全く分かりませんね。
　……あれ？魅月さんどうしました？
　難しい顔をしてますよ？」
資料をみてじーっと考え込む私に、
真白さんが話を振ってくる。
まぁ、確かに危険はなさそうだし、
問題はない。
でも、明らかにおかしい点がある。
指摘するか、
それとも咲良さんが話すのを待つか——
そう考えて咲良さんの方をみると、
お願いしますと目配せをしてきた。
やれやれと私は一つ首をふって答えた。
「——まぁ、シンプルな話なのよ。
　何度か開発や解体の話がでているのだけど、
　不思議と空中分解しているのね。
　だからこそ残っている。
　悪いものはないけど、何かはいる。
　だけど、何かがいるような要素も話もない。
　記録に残っている限りはだけど。」
そんな私の答えに、
物凄く嬉しそうに咲良さんは頷き——
「ええ！その通り！
　だから、
　少なくとも面白いものはみれるかなと思って。
　さすがに相当危険なものなら——
　お二人のどちらかが感じとれるだろうし、
　何がそうさせているのかが分かれば、
　今後の対策もとりやすいという事で、
　折角ですからお仕事も組み込んで、
　リベンジも含め一石三鳥！
　どうかな。」
わが意を得たり！といわんばかりに嬉しそうに、
ここにしましょうと言ってくる。
相変わらず手際がいい。
成る程なーと、
睦美さんと真白さんも頷いている。
まぁ、私としては断る理由もないし——
「いいんじゃないかしら？
　睦美さんも真白さんもいいみたいだし、
　ここに決定かしらね。
　それでどうする？
　分かれていく？
　それとも——」
「４人一緒がいいんじゃないでしょうか？
　２人とかばらばらでもいいかもしれませんけど、
　何かおこるとしたら——」
「魅月と一緒の時か。
　道理だな。」
「２人きりってのも悪くないけど、
　今回に関しては、皆でないと意味ないもんね。
　一丸となっていくのに反対はないよ。
　それで——
　私からは以上なんだけど、
　注意事項はある？」
注意事項、というと、
いつもどおり、離れない事くらいだが……
今回の場合は、
敵か味方かも分からないのがいる感じ。
そういう時にまず大切なのは……
「離れない事はもちろん、
　騒がずあわてない事ね。
　はぐれた場合はその場で待機。
　むやみに動くと探りづらいわ。
　ただし、命に関わるような状況ならすぐ逃げる事。
　これくらいかしらね。
　後、迂闊に答えては駄目よ。
　友人が来るからそれまで喋るなっていわれてるから、
　来るまで待ってとかいってればいいわ。
　しつこかったら友人呼んできてとでもいえばいいし。
　後はどうにかするわ。
　……それくらいかしらね。」
他に何かといわれてもぱっと思いつかないし、
睦美さんと咲良さんも納得して頷いたようだから、
問題はないだろう。
その後は他愛もない会話をして食事を終え、
皆で咲良さんの車に乗って目的地へと移動する。
はてさて、何が待ち受けているのか。
車の中から窓通しで見える夜景を見て、
だんだんと人気のない道へと行く様子を楽しみつつ、
これからの事に想いをはせる。
「面白くなるといいのだけど。」
しかし、私のこの一言に微妙な顔をしなくてもいいと思うわ。
まったく……失敬な話よね。