(※最近のお話ですが、
　 番外編じみた所があります。
　 前回続きです。
　 本編はそのうちそのうち続きを書きたい。
　 日記落とすかと思った……)

「というわけで。
　よろしくお願いね？」
「何がお願いなんですかねぇ……？」
唐突なお願いに、
怪訝な表情を浮かべるアルネスさん。
用件を全く伝えてないのだから当たり前ではあるが、
警戒しているのは、
おそらく嫌な予感がしているからだろう。
まぁ、嫌な予感はあたっているのだが。
「ちょっと斬られてくれないかしら？」
「全くもって意味が分からないんですが、それは。
　というか斬られたら死ぬよ！？
　いくら頑丈でもさ！」
「——どうしても？」
「どうしても。
　っていうか、怪我とかしたくないです、はい。」
流石に頼む事が事なので、
そう易々とはうなずいて貰えない。
仕方のない事ではあるが——
断られるのは目に見えていたので気にしない事にする。
「残念ね。
　刀の腕を鍛えていたのはいいけど、
　相手がいなくては本当に使えるか分からないのよね。
　かといって辻斬りとかするわけにもいかないから、
　相手として実力があって、
　斬っても大丈夫そうなアルネスさんがいいと思ったのだけど。」
「大丈夫じゃない！
　全然大丈夫じゃないから！
　いや、手合わせとかする分にはいいけど、
　斬るっていうからには全力で斬りこんでくるんだよね？」
「そりゃあそうよ。
　全力でないと意味ないし、
　そもそも貴女の方が格上じゃない。
　手加減できるほど私は強くないっていうか、
　貴女に比べたら技量あった上でなお足りないくらいよ？」
「そりゃあ分かってるけどさ。
　かといって……
　なんか魅月さんの攻撃くらうと、
　傷だけじゃすまない気がするんですが、それは。」
「否定はできないわね。」
「デスヨネー。
　んー……
　相手するにはやっぱり人型が？」
「人型がいいわね。」
「それじゃー……
　魅月さんのエンブリオに頼むとかどう？
　あれなら斬られても大丈夫そうじゃない？」
「エンブリオ、ね。
　——まぁ、考えてみるわ。
　ありがとう。」
「どういたしまして。
　うん、だから斬るのやめてね。
　マジで。」
とはいえ、会話して収穫はあった。
相手がいないなら、
相手を用意してやればいい。
幸い、私はそういう手段に事欠かないし、
私自身傷ついたり誤って死んだりしても問題ない。
しかも、自分の意思をそこに介入させない事も可能である。
早速斬るのをやめてねというアルネスさんと、
意味深に微笑んで頭を下げて別れつつ、
早速考えてみる。
エンブリオそのものを相手にするのもいいだろうが、
それはもっと実戦を経験してからの話。
となると——
ほどほどの相手による実戦経験から、
どんどん格上を相手にしていくのがいい。
それに適した相手を用意するとすれば——
「最初はゴーレムとかゾンビとかかしら。
　型を作って宿らせれば量産もできるし……
　対応もしやすいわね。
　……
　ゾンビからはじめるのが無難かしら？
　ただ問題は……
　ああ、城内の敵ででてきたし、
　探せば再利用できそうなのあるかも。
　ちょっと探ってみましょうか。」
霊を使って探りをいれるが、
探しているとときに探し物はえてして見つからなかったり、
遠すぎて流石にそこまでいくのが億劫だったり、
中々上手くいかない。
まぁ、一時が万事上手くいくようなら、
私とて今まで苦労の一つもしなかったから当たり前ではあるのだが、
気合を入れてる時に上手くいかないと、
やっぱりちょっと凹んだりはする。
「中々上手くいかないものね。」
どうでもいい時は、
普通に成功しても、
実際に何かしたい時に成功しなくては意味が無いというのに、
間が悪いというかなんというか。
まぁ、万事えてしてそういうものなのだと分かっていても、
こればっかりはなれないし、
どうにもならない。
とはいえ、
私には別の方法がある。
「ゴーレムの方にしましょうか。
　ノーライフキングを取り込んだし、
　力を利用すればなんとでもなるでしょうし。」
霊の力を利用して泥人形を３体ほど作り上げ、
霊を憑依させる。
ぎこちなさは残るもののなんとか動くようなので、
剣を持たせて私へと襲いかからせる。
前方正面、左右から剣を振り上げ襲いかかるゴーレムに対し、
まずは、と刀を抜いて左のゴーレムへと駆ける。
即座に対応するように私を囲んで剣を振り下ろそうとするが、
私の左側ががら空きなのを利用して、
左にいたゴーレムの剣を刀でいなし流れるように左へとぬけながら、
刀を一閃、
ゴーレムの腰の辺りを薙ぎ、
体をひねりくるりと反転しそのまま一閃、葬り去る。
そんな様子にもひるまずに向かってくるゴーレム達に、
私は距離をとって退治する。
残るは２体。
しかし、
流石にこんな木偶のようなゴーレムでは相手にならない。
「もう少し強い相手じゃないと、
　肩慣らしにもならないわね。」
指をならす。
それに反応するように二つのゴーレムが混ざり合い、
一体の巨大ゴーレムと化し、
両手に剣を構え、私に対峙してくる。
しかも、剣自体もそれにあわせて巨大化している。
泥に含まれていた鉄分だとかを剣に集中させたのだと思うが、
流石にこれは想定外である。
憑依させる霊の霊格もあげたせいか、
その姿に隙は無い。
少しやりすぎたかもしれない、
と思いつつも、
これくらいやらないと意味が無いかと首を振って気を取り直し、
正眼に刀を構える。
大型のゴーレムだけあって動きは鈍い。
スピードだけならまだ私の方が上だから、
落ち着いて動けばかわせなくは無いが、
パワーがあるため、
大きくかわしていかないと、
その衝撃だけで動きが止まり、
大きな一撃を受ける事になる。
そうなれば当然私の負け。
さらに、
私の得意ないなす方法は使えない。
刀が耐え切れないというわけではないが、
私の腕がもたない。
というわけで私は避けながら攻撃をしないといけないが、
剣自体の大きさも大きくなった上に、
体が大きくなったという事は、
腕のリーチも当然ながくなったという事。
故にこちらの完全な射程外からとんでくる攻撃をよけながら
懐に飛び込む必要があるが、
振り下ろされる剣、
だが、迂闊に懐に飛び込めるかというと否だ。
なぜなら振るわれる剣は一振りではなく、
二振りある。
前に向かって間合いをつめたところで、
追撃するようにとんでくる二撃目をかわせるだけの力はない。
故に、後ろへと下がる。
地面に叩きつけられた剣は大きく地を揺らし、
地を割いて衝撃を生み出す。
それによって動きが鈍った所へ二撃目。
だが、それは読んでいる。
衝撃を利用して更に後ろへと飛ぶ事で回避。
なんとか凌いだが、
正直更に距離があいただけで、
結果的には最悪の結果ではある。
が——
二撃目をかわし、
地に足をつけると同時に前に出る。
地へと突き刺さった剣を抜くまでの一瞬の隙をついて、
剣の上にのり、そのまま腕を伝うように駆け抜ける。
振り落とそうとしても、
私はくらいつくつもりだし、
巨体であるがゆえに咄嗟の動作はできない。
しかし——
私の頭上へと三撃目の剣が振り下ろされる。
それをみて、私はゴーレムの腕から飛び降り、
駆け抜けるように片足を斬り、そのまま体をひねるようにして、
再び反転。
横薙ぎに斬りつけた足に追撃を喰らわせて、
そのまま足を斬り捨てる。
自分の腕へと剣を叩き下ろし、
片足を斬られたゴーレムは、
大きく体勢を崩し倒れこんでくる。
巻き込まれないように移動しながら、
そんなゴーレムの首を刎ね——
「——とは言え……
　図体がでかいだけなら、
　逆に動きが単調ね。
　しっかりした思考回路をもっていても、
　自ら傷つく事を厭わないのは、
　利点であると同時に欠点ね。
　私も心しないといけないかしら。」
崩れ去るゴーレムを尻目に刀を背に背負い、
大きくため息をつく。
実験も実践も成功。
このまま実戦をかさねていけば、
それなりの高みまで到達する事は可能だろう、が……
「でも、こう、刀とか武器を使うのは性にあわないわね。
　別に武器が嫌いだとか、
　殺すのを厭うだとかはないのだけど——
　——自ら戦うというのは向いてないわ。
　ここまでやってなおそう感じるというのは、
　もはや病気か何かね。
　とはいえ……」
じっと刀を見る。
綺麗に刃こぼれひとつないその刀身は妖しい輝きを秘めている。
まるで私を魅入る様に輝くそれは私に告げる。
もっと、もっと斬れ……と、
命亡き者ではなく、
命あるものをと。
妖刀とよばれるそれは、
私にとって刀の実力からすると過分な代物。
故に手に入れてしまったからには、
出来るだけ使わないと刀にもわるいし、
なんというかもったいない。
代物が代物だけに、
文句を言わないという対価で譲り受けたものではあるものの、
使えるようになる為に買った代物なのだから、
きっちり責任もって最後まで使うべきだし、
代物が代物であるだけに他の人に渡すわけにもいかない。
まぁ、奪い取ったらその人が後悔するだけならいいのだが、
残念ながらそれだけではすまないのだし、
後々面倒くさい事にからまれるのはあまり望ましくない。
だからこそ、人に触れさせず、
私がもち続けなければならない、
そのためには好む好まざるにかかわらず、
結局この刀を使う必要がある。
しかし、
刀を使い始めて分かったことも一つある。
それは、
刀を全く使わない、
私が元々もっていた体術の技法は、
十全、それ以上に刀を扱う際に応用が効くという事。
無論、無手の方がおそらくは今はまだ強いが、
今後刀をつかっていくのであれば、
それ以上は見込める余地はある。
そして——
これは両刃の剣ではなく、
片刃の刀。
峰を利用すれば、
ちょうどいいかもしれない。
「使いたくないと考えるのも、
　己の未熟さ故ね。
　——無手は無手、
　獲物は獲物。
　どう扱うかは私次第、
　そして——
　まぁ、
　この獲物を選んで、
　武器を選んだのも私ならば、
　最後まで責任持たないとね。
　——これほどまでに相性のいい武器なんて、
　滅多にあるものでもないのだし。」
刀を振るう。
おそらくこの刀に対して私が抱いているのは形は違えど迷いなのだろう。
私の心の奥底に眠る迷い。
それが何かは今の私にはわからないが、
それは確かに私の心の奥底にあり、
表面化している。
ならば——
私はその迷いの正体へと向き合い、
断ち切りたいと願う。
——いまさらそんな迷いに向き合えない程、
私は弱くはない。
そんな迷いなどよりも大きな——
超えられぬ迷いを超えたのだから。
断ち切る。
それだけを願って刀を振るう。
どんどんと無心に、
何も考えないように。
一心不乱にひたすらに。
そうして刀を振るうちに日が落ちて夜がやってくる。
冷たい夜風と私を照らす月によって、
我に返った。
どれほど長い間、
どれほど熱心に刀を振り続けたのか。
こんなに熱心に一つの事に自分が打ち込むのが珍しく、
思わず笑みが浮かぶ。
嬉しいわけではないが——
そんな自分を発見して面白くてたまらなかったのだから。
「魅月さーん！」
そして、
そんなに遅くまで刀を振り続けた私がいつまでも戻ってこないのを心配して……
と、
いうよりも寧ろ、
ご飯の用意がしてなかってエモさん辺りにいわれて探しに来たのだろう。
アルネスさんの声が届いた。
「ここよ。晩御飯の用意今からすればいいのかしら？」
「あ、うん。お願いできる？
　エモさんがおなかすかして大変な事になってるんだ。
　えーと。
　もしかして……ずっと刀振ってたり？」
「そうね。
　ずっと振っていたらいつの間にか、ね。
　そういえばアルネスさんにはそういう事はあるのかしら？」
「あー、たまにあるけど、滅多にないね。
　それにしても、魅月さんがまさかねぇ。
　そういうタイプにみえないんだけど。」
「雑念多いタイプだし仕方ないわね。
　ま、話し込んでいても仕方ないし、
　晩御飯終わらせてゆっくり寝ましょ。
　——ああ、そうだ。」
「——うん？」
「——私に刀って似合うかしら？」
「えーと。
　慣れてる私からすると違和感凄いけど、
　そうでないなら似合うんじゃない？」
晩御飯の用意へと向かう前に、
最後にアルネスさんに投げかけた問いかけ。
その答えはアルネスさんらしいシンプルで、
分かりやすいものだった。
けれど——
その答えの中にこそ、
私の迷いの正体がある気がした。
なんてことは無い。
迷いの正体について最初から答えは私の中にあった。
シンプルで単純。
それは——
私らしくないのではないかという葛藤。
何を使ってどう振舞おうと、
私は私。
それは変わらないのだから——
それを自覚すればよかったのだと。
そう、たったそれだけのお話——

>レディカさん

他の分割世界から泳いできてるかもしれません。

ぬいぐるみ振り回して遊んでる。
ぬいぐるみはあくまで自分の玩具であり、自分の体とは違うらしい。