王宮騎士団副長だった俺が職を辞したのは、
年を取り、王が降りて新しい王が来るとともに、
以前から決めていたように未来ある若者達へとバトンを託したからだ。
そんな俺はこうして今日も王宮の庭を手入れしている。
本当ならば職を辞して、
王宮から離れて隠居するのが筋なのだろうが、
まだ働けなくなる程年老いてはいないし、
庭いじりは好きだったので、
これはこれで天職だと思って楽しんでいる。
何かあれば国の為に、王の為にいつでも動く事も出来、
自分が職を辞した後の騎士団や、
王の事を見続け、関わる事も出来る。
そして、自分を慕ってついてきた部下の女の子達もまた、
忠実に自分の指示に従って庭師の仕事を楽しんでいる。
恵まれすぎた環境、
恵まれすぎた時間。
自分が年老いてこの世を去るまで、
この幸せな時間が続くと思っていた。
だが——
その幸せな時間は長くは続かなかった。
新しい王がネクターの独占を始めたからだ。
沸き起こる民衆の不満、
王宮も、騎士団も……
今の所表だった騒乱はないとはいえ、
不満と混乱が募っているようだった。
変わらないのは庭師の仕事と、
部下が変わらず自分を慕ってくれる事。
そして、王家への忠誠だろうか。
何があっても王家を裏切らず、
己の忠誠を示し続ける。
だが——
そう己の心で決めても、
やはり、迷いはある。
本当にこのままでいいのか、
自分は何もしなくてもいいのか。
だが、
自分は庭師だ。
ならば、
自分のやるべき事はこの庭を手入れし、
守り続ける事に他ならない。
それ以上もそれ以下も必要ない。
反逆の狼煙をあげた物達がきたら撃退する。
……そう、それだけだ。
それ以上は必要ない。
庭師はただ害虫を退けるもののみ。
——己を倒せない程度の人間に、
未来を託すことなど出来はしない。
口が裂けても言う事はないが、
一つ確かな事があるとすれば、
王はきっと——
自らが討たれる事すらも承知の上でやっているのだ。
ならば、これこそが真の忠義の在り方だろう。
王を諌めるのが忠臣なのかもしれない。
だが……
諌めてどうにかなる程度の覚悟、
正しい諌めであるならば、
ここまで静かなのはおかしいし、
こんな事態にはなっていない。
ならば——間違いなく……
そうせざるを得ない事態が起きている。
そう考える方が自然である。
「ぬぅ……」
「どうしました、ブランチマン様。」
「いや……最近の出来事について考えていてな。
　気にせず作業を進めてくれ。」
考えれば考える程、
嫌な予感が募り思わず声に出した所を、
部下の庭ガールの一人に聞かれてしまう。
思わず苦笑を浮かべ手を振って仕事を続けるように指示するが、
心配そうにしていた所をみると、
俺はよほど酷い顔をしていたらしい。
どうしょうもなく心配なのだ。
何もかもが。
王と反逆の狼煙をあげた一揆の者達。
聞けば、
圧倒的な力量の差を埋める為に、
他の世界から様々な人間を呼び出したらしい。
呼応するものは後を絶たず、
勢いを増していく。
善意からやってくるものはまだいい。
だが、それだけとは限らない。
良きも悪しきもないまぜにして、
一体何を成そうというのか。
それに対して王の側はなんの手も打っていないように見える。
確かにこの世界はエンブリオの力が肝心だ。
ネクターを独占し、
エンブリオの力だけならば圧倒的な力を誇るだろう。
だが、
他の世界の人間にその常識が当てはまるとは限らない。
ならば、
だからこそ、
余りにも静かすぎる対応に違和感を感じる。
まるで、王自らが倒される事を望むかのように。
もし……そうでないとするならば、
王は一体何を考えられているのか。
分からない。
何もかも。
だが、良かったとも思う。
こんな乱れた心で、
王宮騎士団副長であったなら、
俺はきっと何も守れなかったろう。
忠義を尽くし、
王を信じ闘うとしても、
それでも……
不安ばかりは拭いきれるものではない。
不信では決してない。
“不安”だ。
王の事を信じ、
守り抜く騎士団の上に立つ者が、
不安を持っていては下のものにも動揺が広がる。
先ほど庭ガールに指摘されたように、
俺は感情がなんらかの形で表に出やすい。
隠しきれるような性分じゃあない。
やはり、
あの時職を辞して庭師になった事は幸いだった。
そう思うしかない。
庭の手入れをして心を静め、
こうした考えによって巻き起こる不安を抑えつつも、
王の為に仕事が出来る。
俺はしがない庭師なのだからと言い訳が出来る。
なんとも情けない理由だとは思うが……
それでも、
いや、だからこそ……
俺はこうして庭師をやっているのだから。
「……若い者たちが未来を創る、か。」
王も一揆の連中も、
等しく未来を創ろうとしている。
ならば、
俺はそれを見届けるべきなのだろう。
どちらの未来が正しいのか、
どのような未来が待ち受けているのか、
後進に道を譲った老兵に出来る事など、
それくらいでしかないのだから。
そして——ついに、
一揆の手の者達が俺の所へとやって来る日が来た。
「ブランチマン様、侵入者です！」
「侵入者です！」
「侵入者です！」
「侵入者です！」
それを見て俺に報告してくる庭ガール達。
「分かった。
　では、迎え撃つとしようか。
　——庭園の終わり、
　城の門の前へと行くぞ。」
高枝切りバサミを手に、侵入者……
一揆の者達を迎え討ちに行く。
思わず笑みが零れる。
はたして彼等は俺に託すに足るだけの物を見せてくれるのだろうか、と。

——庭を戦いで穢す訳にはいかない、
庭の終着点にして城の入り口で侵入者を待ち構えていると、
三人の女の子とぬいぐるみが姿を現した。
一瞬呆気にとられるが、
ここまで来たという事は相当の力があるのだろう。
見た目に騙されてはいけない。
そして……
本当にこの門を潜るに足りる存在かを見極めねばならない。
私は王にくみする者であり、
彼等の敵である以上、
相応の口上をもって相対すべきだろう。
「ハッハッハッ！！
　来たかクズどもめッ！！
　我こそは元・王宮騎士団副長にして現・庭師、
　ブランチマンッ！！」
大きな笑いと共に気合を発する。
相手を威圧し、
こちらの立場を明確に。
しかし、それでも相手はひるんだ様子はない。
眼を見ると良い目をしている。
「おなかすいた……」
約一名、こちらの事を食べものを見るかのように見ながら、
庭園の果物をかじっているのがいるが……
……深く考えたらいけない気がするのでスルーする事にした。
ああいう手合いに真っ当に関わるのは良くない。
気を取り直し……
「この戦に何を求める若造よ……
　その意志の強さ、
　力で以って示してみせよッ！！」
高枝切り挟みを取り出し構える。
——この俺を倒せないようでは、
この先に進んでもただ骸を晒すのみ。
ならば、
退くならば良し、
俺を倒して進むというならそれはそれでよし。
俺に負けるのであれば、
丁重にお引き取り願うのが彼女等の為というもの。
彼女達は闘う事を選んだ。
実に良い意志だ。
ニヤリと笑い……
「その意志が無駄なものであったと悟らせてやろうッ！！」
“悪役”に徹する。
庭ガール達もそれを分かってくれたのだろう。
「悟らせてやろーうっ！！」
「悟らせてやろーうっ！！」
「悟らせてやろーうっ！！」
「悟らせてやろーうっ！！」
皆、俺と同じように意気込みを入れて彼女達へと立ち向かう。
だが——
「——」
セーラー服を着た少女が指を鳴らす。
すると、風が吹き抜け庭ガール達を吹き飛ばした。
「ぬっ！？」
「も、もう無理…ですぉ…ッ」
「も、もう無理…ですぉ…ッ」
「も、もう無理…ですぉ…ッ」
「も、もう無理…ですぉ…ッ」
あっという間にノックアウトされる庭ガール達。
何をしたのかすら分からない。
だが、そんな程度でひるんではいられない。
「グヌォオオオオオ……ッ！！」
力を込める。その隙にぬいぐるみが魔法を、
斧をもった少女が己へと攻撃を仕掛けてくるが、
気にする事なく、
「……ッカアアァァァッ！！！」
裂帛の気合を込めて高枝切りバサミを振りかざし突撃する。
見えない何かが阻む様に己の行動を阻害しようとするが、
その程度で俺は止められない。
思いっきり、庭ガールを瞬時に仕留めた少女へ、
体当りをぶちかまし、高枝切りバサミを叩きつけた。
柔らかい感触と共に少女の肉がひしゃげる感覚がする。
やりすぎたか？
その一瞬の油断が不味かった。
２発目の体当りには力が入らず、
隙が出来た所に畳みかけるように魔法と斧、
そして見えない何かの力によって限界を迎える。
——年を取ったものだ。まだこれからだというのに、
ここで限界を迎えてしまうとは……
ならば、己を倒した彼女達に賞賛をもって勝利を明け渡すべきだろう。
「よくぞ破ったぁぁぁッ！！！」
そう叫んで大の字になって倒れる。
素晴らしい力だ。
素晴らしい意思だ。
ならば、もはや俺の出る幕ではない。
……今を生きる者達同士で未来を掴みとるがいい！
「ふふ……往くがよい若造よ、
　いつの世も新たな世界は若者が創るものじゃ……」
満足げにそう笑って……俺は意識を手放した。

「……えっと、魅月さん大丈夫？」
——体当りを喰らってから起きあがれない私に、
アルネスさんが声をかける。
別段問題はないといいたいのだけれど、
流石にあんな体当りを喰らってしまえば、
いくら衝撃やダメージを緩和したとしてもダメージは避けれない。
というか、寧ろ普通ならば死んでいても可笑しくは無かった。
お蔭で……
「……悪いけどその斧でトドメさして貰っていいかしら？
　変な風に骨が砕けてて立てないし動けないのよ。」
「……マジで？」
「冗談よ。
　まぁ、仕方ない事とはいえ極力力は借りないわ。
　少し待ってて。」
半分本気ではあったが、
流石に億劫だからといった理由で手を煩わせるのは本意ではない。
大人しく霊を操り、
自らにトドメを刺す。
一思いに喉をかき切って。
鮮血が傷口から迸り……
止まる。
「やれやれね。
　一度死なないといけないのが難点よね。」
そういって喉をさすりながら立ち上がる。
「死なないと分かっていても色々心臓に悪いんだけど。」
「目視しなければいいのに。
　さて。と。
　エモさん適当に庭園のもの食べたら先に進むわよ。
　そこの人達食べないようにね。」
「あれ。
　優しい。
　食べちゃっていいっていうと思ったのに。」
「別に食べてもいいとは思うけど、
　貴女の後味が悪いんじゃないかしら。
　決して悪い人じゃないみたいだし。」
「……あ、うん。なるほど。
　ありがとう。」
「どう致しまして。」
全くもってどこもかしこも不器用な人が多過ぎる。
私も決して器用ではないけれど、
もう少し器用に生きれる人にも会ってみたいと思うのは、
仕方のない事だと思う。
私は決して導く人物じゃないというのに。
「はぁ……」
私らしいといえば私らしいし、
らしくないといえばらしくない。
「たまには本気でへし折りたくなる人がいればいいのに。
　——まぁ、そんな相手が出てくることなんて稀だし、
　期待薄っぽいわね。
　……全く。」
——私もつくづくお人好しね。
そんな言葉を飲み込む。
基本的に自由気ままに好き勝手に生きる私だからこそ、
今の状況につかっているとそれを痛感させられる。
悪くはないし嫌ではない。
単純に少し癪に障るだけだ。
なんとなくイライラしてきたので、
のびているブランチマンを蹴っておく。
「全く。貴方も悪役になるなら最後まで徹しなさいな。
　倒されるまでが悪役とはいえ、
　最後にあんな台詞を放ってしまっては、
　貴方が悪役でない事も、
　貴方が何を考えて動いていたのかも見え見えよ？
　——ま、貴方が実直で真面目な人間だから仕方ないのだけどね。
　……それでも、そうでなかったら遠慮なく出来たのに。
　せめてこの蹴りくらいはついでに受けておきなさい。
　意識はないでしょうけど、
　後で何かあっても謝らないわ。
　貴方が悪いのよ。」
そういってブランチマンに背を向けると、
彼は意識を取り戻したらしく——
「——言ってくれる。小娘が。
　……だが、確かにその通りだ。
　甘んじて受けよう。
　……一つ聞かせてくれ。
　お前は、お前達は何のために闘う。」
と、問うて来たので、私は答える。
「——私達というなら、
　私以外は単純に悪い王様を退治しに来たのよ。
　細かい理由は様々だけど。
　私は只の観光。
　面白そうだからよ。
　——何が正しいかなんて分からないのだし。
　此方側でしか見れない事もあるのだから」
「——成程、な。
　……せめてもの健闘を祈るとしよう。
　この世界を楽しんでいってくれ」
「言われるまでもないわ。」
——その会話を最後に私は仲間達より一足先に庭園を後にする。
新たな出来事に出あう為に。
——

メル友から彼の世界では鉄板にして異国受けも良い有名処の和菓子各種詰め合わせが届きました。
鉄板の銘菓だからこそ、異世界の人々と共に楽しめるかと。
彼の元の料理人が作るもっと遥かに美味しい菓子は、絶対に他の子が送ってるだろうしね。

磯魚を塩抜きして焼きほぐした身の瓶詰めも同梱包され。人が食べるには味気ないけど…？

レース模様の油紙とカラフルな和紙でラッピングされたプレーンのパウンドケーキです。
食べれば解るでしょうが、ホットケーキミックス使用です。
それでも他の材料が良いのか、師匠が良いのか、十二分に美味しいのは確か。

署名のみ、カーボン紙を用いかな釘で引っ掻いたような字体でカヅキと書かれてます。
包みの中は豊撞さん謹製・季節の花々を象った練餡の和菓子が収められております。同封で上物の煎茶も。

桂禾（かつらのぎ）は朔位（＆望宮＆麻累、他）の氏族名。
隠すようなもんじゃないし、普段使ってないし(氏族名だとその中の誰を指すのか解らないからね)、
別に知られたからと云ってどーでも良いのですがっ
バレンタインに届いた小包の宛名書きにフルネームが記載されているのをみて心理的にどっと疲れたのは確か。
何処まで情報流されているのやらと。

あの女からの贈り物を受けとった者全員から返礼の品を託され、配送手配宜しくと言われては…己だけ無視する訳にもいかず。
やけくそ気味に自分も無難に花束を送った次第。
花の種類はなんとなく、店頭で目についたの選んだ。朔位さんは花を眺める楽しみは解っても、花言葉までは気をまわしてないからね！

確信しているというよりは、とっくに諦めている口調で。

岩絃について楽しそうに話す魅月と、またその話しぶりから岩絃も異世界でそれなりに楽しく過ごせているようだと察した
電話の向こうから少年の憧憬と嫉妬を拗らせた憎悪が漏れ伝わり
それでも口調は変わらず穏やかに会話を続けている。

怨嗟の感情でノイズが強まり更に聴き取り辛くなった葛築の独り言を、
死霊の気配が混じっているが故に魅月さん周囲の怨霊は好んで拾い上げたようで。
僕と岩絃さんはほぼ同じ躰のはずなのにマナの変異に僕だけ耐えられない。
どこまでもいつまでもわらわにたたるのか岩絃め