地面と水平に、真横へ伸べた腕。肩から生えその腕を伝って指先まで伸びている蔓草は、その実どこから生えているのか判然としない。パーカーの肩を突き破ってなどもちろんいないのに、太茎の根元は間違いなく肩口にある。それどころか僕自身にはそれが伝う感触すらなく、目視しなければそれがあることにすら気づけないだろう。
　しかしそれは確かにそこにあり、しっかりと僕へ根付いている。

　指先の蔓草に蕾が息吹き、早回しのビデオを見るように膨らみ花が咲く。
　その香はrefrigerio　安らぎの名前に反して鼻をつく。ただ自分がこれに何度も助けられてきたことも事実だし、次の戦いにおいても使うことになるだろうと、そう予感していた。
　力は変わらずとも、この花はその有り様を大きく変えている。今のこれは、エンブリオとして実体を持ってはいない。望み力を振るう時だけ現れ現実を塗り替える。例えば漂う香として、ある時は反射の力をもたらす光の桂冠として。

　エンブリオのありようは契約者の数だけある。
　最も普遍的な形と言えるのが普段敵として相対する姿だというだけで、使い手により剣に宿るもの、球体へ形を変えるもの、一体のエンブリオの様々な側面として力を開花させるもの、見かけた一揆参戦者のものだけでも挙げきれないほどのパターンがある。
　ならばこれが自分のエンブリオのありかただ。そして僕が異世界で掴んだ魔術だ。embryo 内包されるものの名に等しい。
　例えそれが本来有り得るものでなかったとしても。

　

嫌な思い出なのか。苦々しい顔をしながらパロロコンの肉体を持つ何者かへと尋ねる。
とはいえ、不思議とそれほど警戒している様子はない。
敵対する事はないだろうという確信か、単に呑気なのか。
フィーグルの表情が語る事はなかった。

文化の大きな隔たりに、妙な感心をしていた。

レナートの言葉に、ああ、と納得した様に頷いて。

ふふりと鼻から息を吐いて、小さく笑う。

そっと、蛇龍を右手で指差して。

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