マァムブ内には、カダイエについて調べた資料などをまとめて置いている部屋が存在する。

杖と悪態をつきながら、グリゴリはなんとかその部屋まで辿り着き、ペドロに押し付けられた本や紙束を資料室の机の上に放り出す。
普段なら何てことは無い距離であっても、片足が使えないと移動するのも骨だな、と、杖を放り出して、椅子に腰掛ける。


ふと、放り出した本がインク壷を倒している事に気が付く。
幸いしっかりと蓋が閉められてたそれは、中身を零す事は無かった。

舌打ちを漏らして、緩慢な動きで元の場所に戻し、他に倒れていたペンなどもペン立てに戻す。
位置がずれたメモ用紙を、クリップにしっかりと戻して、ふと、そこに書き込まれた文字に目が止まる。


大した事は無い、ただのメモだ。
後で調べ直そうと思った事が書き残されている。

その字は良く見知った文字だったが、もう、見る事は無い文字だった。

グリゴリはそのメモを、ぐしゃり、と握りつぶした。
長い溜息を吐き、天井を見上げる。





「なぁ、クリフ」




「お前は、どうしてやれば満足だった？」




クリストファーは死んだ。
殺した。



それを彼女が望んだから。




「それとも、これで満足か？」




答える者はいない。
埃っぽい空気がゆるく動いただけだった。

軽く脚を持ち上げて見せる。
が、膝から下はだらりと垂れたまま、腿も然程上まで上がらなかった。

グレイマンの背に向けて口を開き、しかし何も言わずに再び地面に視線を戻した。