祭りに出掛けていたフォルカーがファルクレイの許へ戻って来たのは、ずいぶんと夜も更けてからのことだった。
　浴衣姿で寝入った娘を片腕に抱え、更に反対の手に随分と大きな袋を携えて、彼はゆっくりと丘を下って来る。対してファルクレイは大人しく顔を上げ、近付いて来る大柄を迎え入れる。
「楽しんで来られましたか」
　と尋ねると、傍らへ腰を下ろしたフォルカーは満足そうにうなずく。その顔に浮かぶ表情は、彼には珍しい満面の笑みだ。
　よほど喜ばしいことがあったらしいと当たりをつけて、ファルクレイは喉を鳴らす。
「夕飯は何か食ったか」
　言いつつ、フォルカーは抱えて来た娘の身体を脇へと寝かせた。
　改めて見ればフォルカーの愛娘——クローシェは、本当によく眠っている。
　起こして着替えさせるのも気が引けて、ファルクレイは少し考えてから彼女の浴衣の帯を鼻先で突いた。
「生憎無駄な殺生は好まないので」
　クローシェの浴衣はとろりと輪郭を歪め、そのうちにその姿を彼女がよく着ている寝間着へと転じる。特におかしな部分がないことを確かめてから、改めてファルクレイは主人の方へと顔を向けた。
　対してフォルカーは納得した様子で再びうなずき、がさがさ音を立てて手持ちの袋を開く。漂白されていない茶色い紙の袋の中からは、かすかに、居並ぶ夜店の群れと同じ香りがした。
「俺達は夕飯は食って来たんだがな、残念ながら子連れで」
　その香りの元は、例えばソースの香ばしい匂い。加工された砂糖の甘い匂い。安い油の匂い。
　複数の香りが寄り集まってできた複雑な芳香に、ファルクレイは鼻先を近づける。
　フォルカーは相変わらず嬉しそうな笑顔で、袋の中身を取り出してみずからの膝上に乗せた。
「ちょっと飲み直そうかと思って」
「それにしてはずいぶんと色々買い込んでいらっしゃったようですが」
　焼きそばにイカ焼き、揚げたのだか炒めたのだか今ひとつ釈然としない芋、見るからに後付であると分かる骨付きのソーセージ、夜店に特有の安物の甘味——フォルカーが楽しそうに出して来たのは、"そういう"類の品々だった。
　鼻を鳴らすファルクレイの前で、フォルカーはバターに近い香りのする香料の混ざった油で風味を付けた芋の入った容器の蓋を開ける。その仕草さえ揚々としている様が、なんだか、ちょっぴりおかしい。
「こっちがお前の」
　結局フォルカーは芋とフランクフルトとを、ひとつの容器に入れてファルクレイの目の前に置いてくれる。
　少し迷ってから、ファルクレイはみずからの尻尾で下草を叩いた。
「俺は酒は飲めませんよ？」
「ん。どうせ夕飯食ってないんだろ。……それとも、作り置きの方が良かったか？」
　いえ、と狼は首を横に振る。
　ただなんとなく、違和感、と呼べる感情が少しだけあった。
「こういう買い食いは、なんだか珍しい感じがします」
「まぁな。童心に帰る——みたいな感じで」
　最後に袋の中から瓶入りの発泡酒を取り出し、フォルカーは慣れた手つきでナイフを使って栓を開ける。更に結露のついた瓶を軽く揺らしたかと思うと、止める間もなく鼻先に押し当ててきたものだから、ファルクレイは小さくくしゃみを漏らす。
　途端にクローシェとフォルカーが寄り掛かっている身体が大きく揺れたが、とりあえず、娘の方が目を覚ましてしまうことは無かった。
「子どもの頃以来でな、こういうのは」
　ファルクレイは尾を揺らす。
　ぽつりと漏れた主人の言葉が、ファルクレイにとってひどく物珍しいものであったからだ。
「なんだかちょっぴり懐かしい気がして、つい」
「へぇ」
　悪魔であるはずのファルクレイと、養女であるクローシェと、自分。その三人で時間を過ごすことが好ましいとフォルカーが漏らしたのは、つい先日のことだった。
　それを口にした折の彼の表情に想いを馳せつつ、狼の姿をした悪魔は軽く三度、ふさりとした尾を揺らした。
「その懐かしい日と同じくらい、今日は楽しかったですか」
　問うと、フォルカーはにやりと笑ってファルクレイの顔を覗いて来る。
「楽しかった、じゃない。今日はまだ、楽しい」
　言い返す答えが本当に楽しげであることに、獣はほんのちょっぴり、愉悦に似た情を覚えた。

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サマバケ予定地。前回分も借金。
https://www.evernote.com/shard/s43/sh/4c40b759-eb22-4183-b254-105a2d117b2a/f97391c2f2c9de64a33f4259864fc18e

ついでにちょっくら多忙につきメッセが返せていません。申し訳無いですorz

（頭上でギガヤにばれないように頷いている）

よく聞けばアクセントがややおかしく、言葉に詰まっているように聞こえる部分もある

なにか続けたそうではあったが、チャチャカはそこで言葉を切った

といって腰に吊るした巾着から携帯電話を取り出して見せた

喋った獣とじゃれている幼い女の子を見て少女は少し警戒を解く

そうして獣の背に乗った女の子に手を伸ばす

そう言って女の子に優しく微笑んだ