帰ろう。

ふわりと笑みを向けて銀の狐はその背を見送る
仮の話としてしたあの話が現実にならばければ良いなと思いながら───

街の雑踏は、いろいろな人々を引き寄せる。そして人々を出会わせる。
さながら神の気まぐれのように。それもまた神の気まぐれだなのだろうか。

さながら得物を見つけたような表情をヤツハに向ける。
主を失った廃図書館にはどちらかというと失敗作に近い半端な醸造具合の酒が多く残っていた。
それは龍をもってしても消費しきれないレベルだった。

そういうと、龍はヤツハを半ば強引に連行した。
連行先の廃図書館地下にはおびただしい数の巨大なガラス瓶があり、その８割ほどにはまだ酒がなみなみと入っていた。
さらに、ガラス瓶の先には３６ガロンの木樽が眠っており、これも多くはまだ酒が残っているようだ。

と龍が言ったことを皮切りに、一夜を通した飲み比べが行われた。
その内容は、見ていたものがいたとしたら、神話のトールとウートガルザ・ロキの飲み比べを引き合いに出したかもしれない。

かくして早朝を迎えたころ、全ての酒がゼロになったころ、戦の勝敗は決した。

地面に突っ伏した龍の脇に立つヤツハ

素直に感謝の意を表したあと、心底悔しそうに言葉を付け加えた。

その後、ヤツハの住む伊吹山へと向かう手段を聞き、龍は彼女と別れた。
元来酔いの概念が希薄な龍が、これ以上酒に強くなるにはどうすればよいのか。
それはきっと彼自身にしかわからない。
だが、きっといつか雪辱戦が行われるのだろう……そう遠くない未来で

拝まれると、手慣れた様子でヤツハの髪をわしゅわしゅ撫でて。

ハグを返し、虎髪をくしゅくしゅ楽しそうに撫でて。

その背中に、元気いっぱいに手を振る金狐、ゆったり手を振る銀狐。二匹が、虎妖を見送るのだった。