「ノーム………その」

メィレーは杖にぶら下がる黄色い宝石に声をかける。
それはきらりと光を跳ね返して、メィレーの顔を映した。
彼か彼女かはわからない『ノーム』と呼ばれたエンブリオは、一揆が始まった当初から彼女を陰ながら支えてきた存在だ。
しかし、ノームの力は今、後に現れた強力なエンブリオの影に隠れてしまった。悪い言い方をするならば、その力は今やメィレーにとって不要なのである———

きらり、ともう1つ。ノームは、彼女に意思を伝えるために光る。
ノームにとっても、それは薄々感じていたことだったのだ、

『——ついにこの時が来たのですね———』
「………」

申し訳無さそうな、あるいは悲しそうな顔をした。
間を置かずに契約を解除してしまったサタンやサイクロプスと違い、ノームとは長い時間を共にしてきた。それもあって、ノームの契約を解除することを躊躇っていた。

『…いいのです。貴方の目的を達するためには、私の力は弱すぎる。貴方様は、より高みに昇らねばならないのでしょう』
「それは…そうだけれど」
『そんな顔をしないでください、主様。貴方は使う側、私共は使われる側なのですから。引け目を感じる必要など無いのです』

暫しの間。気まずい空気。


…静寂を破ったのは、きらり光る、ノームの言葉。



『…もう少し、貴方様のお力添えになりたいと願うのは、私も同じです。貴方様さえ良いのであれば、言葉を介すことはできなくても貴方様のお傍で共に戦うことはできます』
「——！　本当に…？」
『はい。私の司る「土の力」を使えば—————』



ぱりん、乾いた音を立てて砕け散る宝石。
目を見開いた彼女の姿が破片の一つ一つに映り込む。
それ全てが一瞬にして琥珀色の光になり、メィレーに降り注ぐ。




—————共に戦いましょう、主様。




その姿は、いつの間にかメィレーの耳元にあった。

　ふい、と赤の妖精が顔を逸らした。

首を傾げる。けれど、疑問に答えてくれる様子も、なさそうで。