夜間、テント内。
　アデルの部屋に間借りしているロザリアは、一人その私室の中にいた。
　部屋の外から音は伝わってこない、例によってアデルは工房で武具の用意をしているが、遮音結界が効いてるためにその様子をこの場所から伺う事は出来なかった。

　誰にも邪魔されず、邪魔しないことを確認して、ロザリアは集中状態に入る。

「（……空いてるといいのだけど）」

　発動させる能力は妖精の力の一つ『心の声』。
　早い話が精神感応（テレパス）であり、かなり強力な使い方をする事が出来るが、距離が空くと簡単にはねのけられてしまう。
　相手に余裕がなければ跳ねられるだろう、そうじゃない事を期待して暫し集中を続け、無事力の手応えを感じてロザリアはほっと安堵を抱いた。

　本来なら、世界を超える行使は相手に跳ね除けられる以前に力が届かない、だが補助デバイスをもたせた人間のところだけは例外的で、ロザリアはそっと相手の名前を呼ぶ。

『……リティリア、今、大丈夫かしら』
『ん、問題ない』

　リティリア、塔を拠点とする人間の一人であり、元はロザリアと同じPTの所属である。
　人見知りが激しく、口数も多くない。ゼルダやシャンテはおろか、リオにすら懐かず、まともに言葉を交わせるのはアデルとロザリアを含めた同PTの女性陣くらいだった。

『近いうちにちょっとこっちに来て欲しいんだけど……』
『私が？　……一人で？』
『トレニアを護衛につけなさい、リティなら大丈夫だと思うけど』
『……何をすればいい？』

　やる事を尋ねられているが、遠回しに状況説明も求められているのだろう。
　必要なら後で聞く、くらいの気遣いは出来る子ではあるが。

『……シャンテがぶっ倒れてね、塔に連れ戻そうかと思って』
『……あいつか』

　リティから色々不穏な気配が伝わってきたが、結局何も言わずじまいだった。
　リティとシャンテは余り仲がよくないが、流石にこの状況で無為な暴言を向けるような事はしないのだろう。
　……そう、馬鹿騒ぎもお互いが万全であるからこそ成り立つ。

『リティが来る前に元気になってくれたら、それはそれでいいんだけど』
『ふん、期待はしない、塔の部屋にぶち込んでやる』

初対面の彼女から出た最後の推測には、
ほんの少し意外そうな、それでいて茶化すような口調で答えた。

口調が変わる、極低い声で。