ありがとう。

充分に発声する事はできなかったが、静かに呟く。

それの直後、ボウガンの放たれる音を聞き、顔を上げる。

矢が突き刺さった場所を抑えながら姿を現す成体ローバルが2体。

その横からは黒い霧が見え、仮面が落ちる音。

一体は一撃で倒され、霧となって消滅したようだ。

フェアリードライバーを装着しなおし、シュウスケも一歩前へ出る。

サイネルの横に立つとドライバーを起動し、戦闘態勢を取った。

息を切らしてサイネルの元に駆け寄るティア。

ティコがシンプルな黒地の布に左目元の部分に月と星をモチーフにした銀の刺繍が入ったアイマスクを貴方に差し出した。

口では「嫌いではない」とは言ったものの、相当サイネルのことを気に入っているのだろう。
刺繍も気合を入れて作ったのか凝ったものになっていた。

その胸中を知る吉もなく、嬉しそうに破顔する。
しかし。

何故、そのような事を聞くのだろう、と思った。

そして、彼女は、話が下手だった。

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質問の意図を知らぬまま、語り始める。

母は元騎士で、文武に通じ、世渡りにも長けた女性だったようだ。
しかし、ある日、夜魔に襲われ、子供を身籠った。
その一子の名は、ミハイユ・ガウ。

ひどく、体の弱い子供だった。
特に太陽に触れると、肌が焼けるような痛みに襲われたという。

——その世界では、魔族と人間の混血児は、間引かれる風習があった。
母はミハイユを人間だと偽って育て続けた。
心配した村人達が色々なものを分け与えても、元気を出すことはなかった。

転機が訪れたのは、彼女が6ツほどの時。
村へと訪れた、おかしな旅人が、ミハイユを『襲った』時。
ミハイユは本能で、『自分には何ができるか』『何をしたかったか』悟ったという。
歩くこともままならなかったはずの膂力は、大人の男を軽々と組み敷き。
腹に突き立てられた刃物を気にもとめず、理性なく男から啜り続ける姿を、村人たちに目撃された時、彼女の人間としての生活は、終わったという。

母と共に村を逃げ出して以後10年間。色々なことを学んだ。
才能はなかったが、勤勉な性格だった。
医学を学び、料理を学び、魔力の制御方法を学んだ。

しかし、それでも彼女は、ずっと獣だった。
人間に憧れ、人間として振る舞い続けても、彼女は決して人間との付き合いがまともにできる体質ではなかった。

要領を得ない語りは、30分ほども続いた。
その間、ひたすら彼女は、自らを、穢れた獣であると強調し続けていた。

[CAUTION]