これは、彼女が愛した物語の続き
覚めない楽園の夢を見続けて、
醒めない悪夢のような卵に閉じ込められて、
褪めない愛の色をなぞるような、
彼女が綴る物語

俺が初めに見たのは、大きな空の色だった
おはようと声をかけたのは誰だったか、
はじめましてと声をかけたのは誰だったか、
そんなことよりも、止まらない涙が気になって
今はもうはっきりと覚えていない
ここが、この世界こそが、
彼女達が、母達が愛した世界なんだと思うと、
愛しくて憎くて、だけどとても大切で
だから・・・涙が出た

長い夢を見ていたんだ
そう呟いた母は
沢山のコードに繋がれた卵のようなカプセルに触れた
楽園と呼ばれた世界を創り出した母は
もうずっと覚めないのだろうと覚悟をしていたらしい
そんな母の、声なき声を、母さんは聞いたんだろうか
長い夢を見ていたの
そう呟いた、最後に見た母さんは泣きそうな顔をして
俺の頭を撫でてくれた・・・もうずいぶん前のことだ
『行かないで』とも『連れてって』とも言えなかった
俺には俺がやらなくちゃいけないことが、
もうわかってたんだ

人形を人間にした娘への罰は
罪を食べて生きる蛇が飲み込んでしまった
父は大層怒り、人間を家から追い出してしまったけれど
そんな人間を追いかけて娘もまた家を飛び出した
父の怒りにより両足を失った蛇は、
地を這いずりながら娘を追いかけて、
追いかけて、追いかけて、
結局何がしたかったんだろうか
今の俺にはわからないけれど、いつかわかるだろうか
それとも、わかったから母さんはいなくなったんだろうか
この答えがわかったら、母さんに会いに行こう

だから俺は世界を巡る
最初の答えが出たときに、始めて俺はゼロになれる

母さんが名前を呼んでくれるその日まで、
俺は誰にもこの名を呼ばせない
だから俺は名前を騙る

母と父の最後の断罪者　と