※今回の日記はENo.348 トーコ＝リハウンド嬢、ENo.1195 ミハウ・クワイアトコウスキ氏、
　 ENo.1196 コトカ・ラヤヤルヴィ嬢をお借りしました。



〜前日〜


それは唐突な巡り合わせ。
本来ならこの道を通る筈ではなかったのだが……


「あ！…トーコさん、ウィルさん！」


聞きなれた少年の声が通りに響いた。
数日前に山を下ってから別れたミハウと、その後ろにコトカの姿もあった。
咥えた煙草を手に持ち直して声を上げるよりも早く、お嬢が「やっほー！」と駆け出した。

本当に偶然である。
ほんの数分前、灰皿を探して一本裏の通りへ入ってきたところだ。
もしかして、灰皿のある所を目印に探してきたのだろうか？

ついついそんな事を考えながらも、お嬢の後ろから手を振って応えてやる。
ミハウもコトカも、スマホや携帯など持って居ないので、いつもの待ち合わせも大体。
まるで小学生が“帰ったらアイツんちに16時ごろ集合な！”と約束するようなものだ。

そんなくだらない事を考えながら、まだ火を着けていなかった煙草を箱に戻す。
そして蓋を閉める前に戻した煙草のフィルターの端を爪で凹ませる……
こうしておけば、次に吸う時にさっき口を付けた煙草がすぐ分かると言う奴だ。

そうこうして駆け出したお嬢の背中に追いつくと——


「こんにちは……あ、あの。突然ですけど……お祭り、ご一緒しませんか？」


にこやかな挨拶の後に、少し間を置いてミハウが口を開く。


「ミハウがさっき見てきたんだけど、韮の市を主催した人たちが、
　今度は森の近くの広場で、収穫祭を開催してるらしいわ」


「色々と出店も出ていて、仮装をしてる人もたくさんいらっしゃいました。
　とても賑やかでしたので、まだ何かイベントがあるのかもしれません」


ミハウの説明にコトカが補足を入れる形で教えてくれたのは収穫祭。
韮の市と言えば、襟元のアミュレットをプレゼントしてくれた時のアレか……


「韮の市って、このアミュレットを買ったときのだよね？」


お嬢もすぐに思い当たったようだ。


「仮装って、ハロウィンみたいなやつかな、丁度時期だし。
　ハロウィン、こっちにもあるんだね」


話を聞いて、そう言ってきたお嬢。
みたいだなぁ、と答えつつお嬢の肩がうずうずしてるのが見て取れる。


「前に市の話をした時、行きたがってたでしょう？　
　今回のお祭り、二人も一緒に回れたら楽しいだろうなって思ったから」


「急なお誘いで、すみません。でも、是非、
　ご一緒出来たらなと思いまして。いかがでしょう？」


収穫祭へのお誘い、こんなお誘いは勿論——


「へぇ、そりゃ勿論……な、お嬢？」


「うん！行く行く！今度は一緒に行けるね、ありがとう！」



◆　　◆　　◆



〜当日〜


仮装をすると決まってからのお嬢の行動は早かった。
それぞれの好みを聞き出して、お得意の通販即日配送である。

あまりそう言うのは柄じゃない、と言ったものの任せておいて！と、
押し切られて荷物が届いたのだが……


「お嬢、そりゃなんだ？」


「うぃーるっ。ちょっと目ぇ瞑ってて」


その質問には答えずに、お嬢がにこやかに迫ってくる。


「いや、待てなんでそんな嬉しそうに……俺にゃそんな趣味は無ぇぞ！？」


「何だと思ってるのさ」

「僕が信用できないの？」


急に包帯を手に言われても……とは思ったものの、
ジト目でそう言われては観念するしかない。


「そりゃ冗談だが、一体それをどう……いや、分った分かった、信用するぜぇ」


そう言って観念して目を閉じる。


「あ、座ってだよ。僕が顔に届くように」


はいはい、と返事をして座り込めば、
お嬢の腕の気配を顔に感じつつ——


ぐるぐる。
……ぐるぐる。
………ぐるぐるぐる。


包帯が頭部から顔に巻き付けられていく感触の中、
一抹の不安を覚えて声を上げる。


「ちょ、先に言っとくがお嬢、頼むから口だけは勘弁してくれよ？」


「え、そんな難しいこと言うの？」


言わんこっちゃない、言ってる傍から口まで綺麗に包帯で塞がれた。


「ひょ、ふほっふ！ふほっふ！ぷぁっ、待て待て待て、
　いいかお嬢よ、これじゃ煙草が吸え無くて俺が死ぬ！」


慌てて口元の包帯をより分け、真剣な声音で訴えた。
こればかりは真面目に死活問題である。ここは譲れない。


「えー、わがままー」


そう言いつつも切実さが伝わったのか、巻き直した包帯は口元を避けてくれた。
やれやれ、これで祭の途中で事切れずに済んだと言うものである。


「できた！あ、でもちょっと寂しいかな」


何をしているのかは見えないが、コメカミの辺りでなにやらゴソゴソ……
やがて「これでよし」と満足気な声が聞こえてきた。どうやら完成のようだ。

割と厳重に巻かれていて、何故か片目しか視界が無いが、
ゆっくり目を開くとやり遂げた感に溢れるお嬢の顔。


「お、完成かい？どうよソレっぽく見えるかぁ？」


「おっけーおっけー、カボチャピンがなかったら、戦場でケガした人に見えたかも」


そう言って鏡を差し出すお嬢。
覗き込んで見れば、何処を怪我したんだと言わんばかりの包帯男。
その頭にはこれまた可愛いカボチャのヘアピンが留まっている。


「おーおー、よくぞ沢山巻いたなぁ……確かにカボチャが無けりゃ
　この格好じゃ戦死者の幽霊つっても違和感ないねぇ」


自分の有様に苦笑しつつも、鏡を返す。
お嬢はと言えば、シルクハットにフェイスペイント、
チョッキにスカートを穿いて、可愛いマジシャン風の格好で既にキメている。


「んし、お嬢も着替えはバッチシだな？よく似合ってるぜぇ」


「でしょでしょ」


「んじゃま、ミハウとコトカも待ってるし俺らも行くかぁ」


得意気なお嬢を連れ、祭の会場へと向かったのだった。

木で作られた台に乗って、踊りながら歌っている女の子がいる
１曲歌い終わると、ちらほらいる観客に向かって話しかけ始めた