いま、私はアトラへ息がかかるほどの近くに立っている。　
こうして、彼女の落とした日記帳を拾い上げ、彼女のかわりに日記を書いている。　
しかし、私の存在はアトラに観測されることはない。　
それはもちろん、彼女の仲間である、フィリー、リナリア、ネム、サルスベリ伯爵にも。　

律法騎士は世界の律法、理、規範、ルール、決まり事に寄り添う存在。　
律法の番人としてだけの存在ではなく……律法そのものを武器として使うことができる。　
それはトルラルールのものに限らない。　
外世界の律法であっても、律法という概念そのものに近づくことによって　
常人には本来不可能なことも実現可能である。　

過去、英雄によって石碑に刻まれた戒めのみが律法ではない。　
個人が個人に対する律法となることもありえる。　
私は律法騎士にして律法。アトラを支配していた律法そのもの。　

アトラは仲間を伴い、ずたぼろの状態のままアヴィドのもとへ向かう。　
ほんとうならばもう身体を動かす力など残っていないはずだというのに。　
魂をなくし、糸の切れてしまった人形を動かす律法とはなんなのだろうか。　

人を掌握し、操れども、干渉し、それに触れることは能わない。　
万能にして無能なる存在。それを律法と呼ぶ。　

「──そして、その時はきっともうすぐ。」