目隠しをされ、正座をさせられているブリギット。
それを正面に立って見下ろす緑。
周りをコガネ村の住人らが取り囲んでいる。

　事の起こりは前日に遡る。
研究棟を守るフォルシュとの戦闘の折、
戦闘に参戦したブリギットは暫く戦った所で離脱し、
後方で力を蓄えた歩行雑草らで一気に攻め立てるという作戦を立てた。
しかし、ブリギットが予想外の粘りを見せ、作戦は破綻。
戦闘は膠着状態に陥り、全くダメージを負わないながらも緑らは撤退を余儀なくされた。

　一番の原因は緑がブリギットの戦力を見誤ったことにある。
敵の攻撃を受ける度体力を回復させる鎮痛。
ブリギットがその加護を受けている事を失念していた。
その為にブリギットは終始攻撃を耐え切った。

　緑も自分の失敗に関しては認めている。
しかし、その上でブリギットにこの仕打ちである。

　作戦を立てる際、ブリギットにも作戦内容の説明は為されていた。
その時点で、ブリギットは進言することが可能だったのではないか？
ブリギットはその点について問われた際、
そこまで気が回らなかったとし、かつ謝罪をしている。
この経緯を見れば、落ち度があるのは緑の方である。
だが、謝罪をする際、僅かにだが、ブリギットは口の端を歪めた。
或いはそれは緑の見間違いなのかもしれない。
しかし、こうなると疑念を振り払うことができない。
今後もブリギットは同じような事を企み、緑を陥れようとしかねない。

　そして、この仕打ちである。
縁も、それに虹色天幕の仲間らもこれを無体だと見た。
しかし、緑は疑念を確信に変えていた。
最早ブリギットが故意に作戦を失敗に導いたかどうかの問題ではない。
ブリギットはこの状況にあっても余裕だ。
自身は雑草王女の契約エンブリオの中でも最高レベルを誇る。
自分が契約を切られる事は絶対に無い。
ブリギットは完全に高を括っている。

　それが、緑には我慢ならなかった。
しかし、その一方で、ブリギットを処罰したりなどできないのも事実である。
ブリギットを処刑などしようものなら戦力は壊滅的に低下する。

　ブリギットはその点を踏まえてか、
この状況でまた僅かに口の端を歪めた。

　緑がそう言い捨てたが、まだ依然ブリギットには余裕がある。
ブリギットは契約してから少しの間、絃繰緑を、雑草王女と呼び習わされる少女を見てきた。
情容赦無くはあるが、同時に計算高い面もある。
腹いせに多少痛い目に遭わせる。そこまでが関の山。
それ以上の事は出来ないに決まっている。
と、ブリギットの首に異質な重みが伸し掛った。

「ギイイイ・・・」

　ジェミニィ。
雑草王女によって300年の眠りから目覚めたエンブリオ。
ヒトの胎児のような、何か。
最初掌に乗る程度の大きさだったが、敵の血を啜る度大きくなっており、
それは今や赤子程の大きさにまで成長している。

　ブリギットの耳にジェミニィの口部がひたりと吸い付く。

　吸引が始まった。
吸うのは血ではない。

　脳だ。

　記憶、思考力、意思、それらがズルズルと饂飩を啜るように吸われる。
ブリギットの口元が緩み、惚け、涎が垂れる。

　ジュルジュルと吸い出して空いたスペースを埋めようとでも言うのか。
ジェミニィはブリギットの耳から侵入していく。
少しずつ、少しずつ、脳を吸って膨れた体を押し込んで行く。
そして遂にジェミニィはブリギットの中に収まった。