色々と登録間違えてました。寒いですね、風邪を引きました。

ヒナ
後ろから声がかけられ振り向いた。私の顔を見て福ちゃんは悲しそうな顔を浮かべる。
わらわなくなったね。

おとなに、なったの？
じっと私を見つめる福ちゃんの顔は悲しそうだった。

大人になりたくないんだ。
大人になったらさ、見たこともない男にいきなり合わされて、その後すぐに結婚だろ？僕の意思なんてなくて、お先は真っ暗。そんな開けない夜しかない未来なんて来なければいいのに。

寂しそうに笑いながら、華奢な少女がポツリとこぼした言葉を思い出した。もしかしたら、この呪いは福ちゃんの意志もあるのかもしれない。うつろな思考を巡らせる。

ガラスに映る自分を見る。長い髪はない。気づかれるのはわかっている。一番変わったことだものね。暗い思考に反応したかのように、緑色の茨がするりと背中から伸びる。

ゆきかあ。

福ちゃんの声にきづき、窓を見る。白いものが空を待っている。天使の羽のようだ。

寒くなるね。

窓を冷気が入らないように少し開ける。雪が、天使の羽が指に触れるが、指は何も伝えない。それが厭わしく、私は窓を閉じた。

ごめんね福ちゃん寒くなったでしょう？
後ろを振り向くと、福ちゃんが部屋にはいない。どこかに行ったわけがない、一体どういうことなんだろう。混乱した頭をゆっくりとふった。

ヒューヒューという音、お嬢様が喘息の時に鳴らしていた音じみた音が部屋を支配する。集落に戻り、姉を呼び出し、集落でそれらしき本を集めさせ、それをお嬢様の眠る部屋で読みあさっていた。髪の毛の一部や、血液、その他の自分でまかなえるものはほんとうに自分でまかなっていた。ものを食べたのは何日前だったか？

「シルヴィちゃん。」

姉の声が聞こえる。目をぐるりと回すと、姉の手には温かいスープの皿があった。

「人間ごときにそんなにどうして頑張るの？別にいいじゃない。たまに力を貸して、恋人として遊ぶ程度の付き合いがちょうどいいのよ、人間は。」

「うるさいですわ。私の勝手です。」

そうと悲しそうに囁き、姉の姿が掻き消える。スープもない。幻覚。薬を見ることもないのにこんなものを見るとは焼きが回ったものだわ。唇を噛むと、鉄臭い味が乾いた喉を湿らせる。

差し込む白い光が煩わしく、窓の方へ這いつくばり辿り着くと、白い雪が遊ぶように舞い降りていく。

シルヴィ、ゆき！

お嬢様の声が聞こえる。

かぜがよくなったらね、おそとでゆきだるまをつくるの！シルヴィもてつだってね。

無邪気に言ったあとに、何かに気づいたのか悲しそうに微笑む。

まえのはこわされちゃったから、みんながきづきにくいところに。

幻想の中のお嬢様に手を伸ばす、小さな小さな子供に。私の手をお嬢様がすり抜けて行く、どこへ行くの。決まっている、ひなのところに。お嬢様が私の知らない女性になっていく。

幻想を振り払うように、カーテンを閉め、外の世界から、自分を隔離する。そして、お嬢様の元へ行く。ベッドの上で寝息すら立てずに眠っている。

お嬢様は知らない女性ではない。あの人は変わっていない、口調や仕草こそ粗野になったものの、扱いは乱暴になったけれど、困ったような笑みや、朝の仏頂面は小さい頃から変わっていない。

顔に手を当てる。氷のように冷たい。今の時期は熱を出して、氷が必要になったのに。

おじょうさま

かすれた声が虚しく響く。返事をするものなどいるわけがない。
現実は過酷だ。おとぎ話のように誰かが救われるわけなどない。神様なんているわけが、むしろ、自分の思い通りになんでも願いを叶えてくれる神様なんているわけがないのだから。なんて現実はろくでもない世界で救いなんてなく、お嬢様の仕事はただの思い込みを煽る仕事にすぎない。

そうでしょう。

挑戦するように天井を見る。何もいるわけがないのだ。お嬢様を救ってくれる神はいないんだから。

ねえ神様、お嬢様が目を覚ましてくれたら、この牢屋から出して、私真人間になって働きますわ。だから、目を覚まさせてくださいませ。

酔ったようにいないはずの存在に嘘をつく。返事などあるわけがない。おとぎ話のような結末などない。お嬢様は決して目をさますことはなく、死ぬ、それが現実だ。ちらりと、目をぐるりと回し、おとぎ話たちの集団を馬鹿にしたように笑った。

あいしてますわ、おじょうさま。

紋切り型の言葉を、紡ぐ。それは耳には届かない。紋切り型に口づけをした。ここにあるものが偽りだと示すために。こんなもので、お嬢様が治るのなら、私は苦労をしていない。

焼けつくような頬への痛みが、酔いを覚ます冷水のように酔った頭を冷やすのはその直後の話だ。