人形にも眠りは必要「だった。」落ちかける意識を茨の冠が締め上げる。その一瞬で精神の休憩や情報の整理が行われる。あの人のところにいた頃は眠ることで行われた処理が一瞬で終わっていた。
便利なことだらけではなくとてつもない激痛が走るけれど、それももう慣れる程度のものになっていた。
「眠りませんの。」
後ろを向きつつ、意味の分からない本を読み耽るシルヴィさんが声をかけてくる。
「あたしのこと嫌いじゃないの。」
「嫌いですけど、死なれたら困りますの。」
「眠る必要はないよ、この体になってからは。」
気だるげにそう答える。昔は宿屋に止まっていたけれど、二人共そういうところに泊まれるような身分じゃないという自覚もあったし、なにより、宿屋でとまらないと体調をくずすような人間もいないから当然なのだろうか。
「ねえ、シルヴィさん。福ちゃんはどうしてねむっちゃったの。」
「そういうのは好感度をもっと上げてから聞いてくださいな。」
どうしてこの人にこんなに嫌われているのかわからない。
異種族だからというものとは違う、私個人への嫌悪があるのはわかっていた。
「あなたの今の契約者はどなたですの。」
「そーいうのはこーかんどをもっと上げてから聞いて。」
言われたままの口調をそっくり返す。

白い顔
よろけた足
細い棒のような手
夏なのに震える声

病弱で見慣れているはずなのに異様な光景

何をきいても、返答はなかった。

ただ、あの人は最後の日に

契約は破棄する、姉貴が引き取るから、あとは姉貴の言うことを聞け。

それだけをいって、ずるずるといつもの仕事に向かっていった。

自分の姿を曇ったガラスで見る。
ボロボロの服、ボサボサの髪。髪飾りはボロボロに成って、仕方なく断片を繕ったものが首に垂れ下がっている。

あの人に話しかけたことを後悔した。どうして、こんなボロボロの醜い姿になってまで、依存するんだろう。嫌われたら傷つくくせに。
人に対して、異常な執着を示すのはきっといけないこと。
相手に対して、きっと悪いことだ。

特に今の私にとっては。

（少女の出で立ちや切り出しに少々面食らった顔をしたが、相手に向き直る）

（武器から離した手を軽く振り、まずはリラックスするように促した）