口の中に鉄臭い味が広がる。足をやられているから、まともに足が動かない。
足がもつれ、小さくアッと呟くより先に地面にキスをした。エンブリオも動かせないし、もうこれはダメだと確信した。霞んだ目で残された時間を確認する

心残りがあるとすればお嬢様の服を傷つけたこと。それと、お嬢様の呪いをとけなかったこと。それだけ。
緑色のものが視界の隅に入り、魔物をなぎ倒すのが見えた。
太い茨を持った乞食のような服を着た娘が駆け寄り、逃げるように注げる。

逃げてと言われ、逃げれないことを告げると、娘は私の前に立った。緑色の羽、いや醜悪な茨が一際損傷の激しい背中から現れる。

この娘は魔女の天使なのか。だとしたら、ずいぶんと醜悪な天使だ。

意識が遠のく。多分、これで終わり。

目が覚めたら、草の上に寝かされていた。脳天気な何処かで見た笑みが目の前にあった。
「ええと、シルヴィさんだよね？」

気に食わない。なんで寄りにもよって助けられたのがこいつなのか。本当についてない。
「誰かと思ったら害獣セイレーンじゃないですか。こんなところまで逃げてきたの？どうして助けたのかしら。私には恨み骨髄でしょうに。お嬢様を眠らせた呪いをかけたのはあなたとご主人様と奥様に言ったのは私ですもの。」
「なんとなく。」

困惑した顔でそう返されると、まるで私が悪者のようだった。いや、実際悪者なのか。この娘ではないとわかっていながら、この娘に罪を着せた。お嬢様は絶対そんなことを願っていないのはわかっていたけど。この娘がお嬢様の近くにいるのが許せなかった。私のお嬢様をこの娘は—

「あのね。シルヴィさんお願いがあるんだけど、私福ちゃんの呪いを解きたいの、だから、力を貸してほしいなって。エンブリオさんも・・・。」
どこまでお人好しなのか。私に罵声の一つもどうして浴びせないの、この子は。これだから、脳筋は嫌い。本当に。
「ここの滞在許可を落としたから、使い魔くらいしか貸せないし、その使い魔にも逃げられてしまったの。」
「いいよ。お買い物をしてくれる人が欲しかったし、それに福ちゃんの呪いを解きたい気持ちは一緒でしょ。ね？」
「リコリス。
ここでの名前よ。シルヴィではないわ。」

了承ととったのか、太陽のような笑みを顔にあいつは浮かべた。気に食わない。どこまでも。胸元の迷子札にシアンと書かれた、名札をみてとる。ボロボロの衣装は嗅ぎ慣れた薬草と生気を感じさせない土の臭がした。
・・・本当に嫌な女。