あの感覚は、一度味わったことがあった。

あの時も僕は地下にいて、石の壁も、床も
自分の手も、腕も、足も、顔も。
触れるもの全てが、恐ろしく冷えきっていた。

こうして、凍えるような寒さの中、僕に残されたわずかな温度が
全て失われた時に、死ぬのだ。そう確信した。



死の王に対峙し、その顔を見た瞬間から、指先が震え、温度がなくなり
弓を引くこの手が、まるで自分のものではないように感じられた。

このまま、戦いは終わらないのではないか？
このまま永遠に、凍える脳にあの恐怖を焼き付けたまま、苦しみ続けるのか？
もしかしたら、眼前のこの死の王こそが、僕に完全な死を与えてくれるのではないか？
極寒の暗闇に放り込まれるだけの、形だけの死ではない、完全な無であり、
僕の身体も精神も思念も意思も、残滓の一片すら何一つ、何一つ存在しない、
永遠の眠りと呼べるような、そんな狂おしいほどの魅惑に溢れた、破滅的な死。
それを与えられるためにも、今すぐに矢を番えるのを止め、死の王の刃をすべて受け、
自らの手で死を選び取り、滅ぶべきではないだろうか？

そんな思考が弓を番えている最中に何度も何度も過ぎり、僕の射る矢は冴えなかった。
あともう一歩遅ければ、今頃はこうして日記を書くこともなかったかもしれない。

しかし、滅んだのは死の王だ。


僕は死を選ばなかった。

僕は生き残った。

そして理解した。

今、生きているこの身体は僕のものだ。
他の誰のものでもない。
次にどうするのか、どこに行くのか、何を食べたいのか、何をしたいのか
どんなものが好きなのか、何を愛しているのか、何を嫌い、憎んでいるのか
諦めるのか、足掻くのか、死にたいのか、生きていたいのか、

僕のことはすべて僕が判断していい。

今の今まで、全くそう思い至らなかったのが不思議で仕方がない。
でも、これからは、そうしていいんだ。

呼び捨てで呼んでもらって

（はしゃいで飛び跳ねた後、真顔になって）