戦闘開始早々に背筋に走る嫌な予感を感じ、私は咄嗟にアイスエレメントを盾にして身を守ります。
そして私が感じた嫌な予感は的中する事に・・・。

アイスエレメントを盾にした直後に貧乏神から発せられた見えない負の一撃によって、
盾にしたアイスエレメントを構成する魔力の半分がまるで抉り取られたかの様にして綺麗さっぱり消えてしました。

戦闘前まで魔術の負荷を身体にかけない様にと考えて行動しようとしていた私ですが、
この時はそれを考える余裕すら無くなっていました。

・・・『魔力そのものを消滅できる』というのは魔術を使う者に対しての天敵。
術式を封じたり使えなくしたりする事のも一種の魔術師殺しだけど、それらへの対策はいくつも存在する。
しかし魔力そのもの、根源を消滅させられたとなると、それはもう魔術師ではなくただのか弱いだけの人。

私もアラヤちゃんも例外ではありません。
私自身、魔力だけは豊富な魔術師ではあるけど、アレが直撃したらまずタダでは済まないと思う。
アラヤちゃんも魔力を持っているからアレが直撃すれば、下手をすれば昏睡状態になる可能性も。

更に私の場合は・・・

そう思うだけで身体中が震え上がりそうになる。

そんな私の様子を嘲笑うかの様に貧乏神が再び負の力を溜め込んでいくのが見えます。
負の力を操り、対象から魔力も何もかもを奪い去っていく・・・貧乏の神と言うだけはあります。

ともかくこのままでは非常に不味いと感じた私は
「次の一撃が来る前にあの貧乏神だけでも倒さないと・・・」と、魔術回路をフル回転させて急いで対抗できる術式を模索します。

この時の私は、焦りと、恐怖と・・・術式の負荷による激痛で正しい思考が行えず、
そして何より隣で戦っているアラヤちゃんをアレから護らないと、という混濁した精神で少し混乱して判断力が鈍っていました。

更に貧乏神のあの負の一撃を弾き返せるほどの術式・・・焦りに焦った私はとある術式に辿り着きます。

それはフロスティの力を取り込んで時に、唐突に頭に思い浮かんだ一つの魔術式。
思い浮かんだ当初はその術式はとても不可解な術式でした。

発動時の瞬間火力、範囲、魔術効果・・・それらは今まで使っていた術式の中でも最上級。
だというのに魔力の消費自体は大きくない・・・むしろ効果に対して少なすぎる位でした。

そしてこの術式の不可解な所は、他の術式にない起動認証用のコードがありました。
この認証用コードがあるのはきっと暴発などを起こさない為にあるとその時の私は思っていました。

普通なら土壇場でこんなよく分からない術式を頼るなんて博打の何でもありません。
でもこの時の私は何故かこの術式ならいけると確信めいたものを感じていました。

既に貧乏神が力を溜め終わって負の一撃を撃ち出そうとしていました。
私は躊躇無くその術式を展開し、急いで貧乏神と周囲の魔物達を対象にして術を起動させます。

「それを使ってはいけない！！」

術式を起動させる際に、誰かの声が聞えた気がします。

　＊　＊


・・・私の意識がはっきりした時には戦闘が終わっていて、隣でアラヤちゃんが凄く心配そうな顔で私を見ていました。

実は戦闘中の事をよく覚えてません。
確か貧乏神が負の一撃を放ったと同時に私が術を起動して・・・そこから先の記憶がありません。

アラヤちゃんが言うには「急に空間が歪むと凄い量の氷柱と氷の河が現れて魔物達を飲み込んでいった」らしいです。

話を聞いた限り、相当強力な術だったみたいです。
アラヤちゃんが言うには、あれは神術などの『神々が扱う概念干渉系の術』と同じ物だとか。

少なくとも次はどうか分からない。そもそもこの術式の原理が良く分かっていない。
それだけ強力な術式なのに魔力の消費が少なすぎる・・・これは魔力以外の別の何かを消費している気がしました。
その何かは皆目検討が付かないですけど。

魔物がドンドンと強くなっていくこの状況下。
この様な切り札を使わざるを得なくなる状況に陥った場合は・・・。

リスクを背負う覚悟が必要かなと、小さく溜息を吐きながらその日の夜を過ごします。


　＊　＊　＊


夜が明けた次の日。
早速、昨日の夜の覚悟が必要な時が来てしまったかもしれません。

暫く歩いていると探知魔術に複数の反応を感じて武器を取り臨戦態勢に入ります。
アラヤちゃんも同じく臨戦態勢に入ります・・・が、表情に少しだけ焦りを感じます。

反応した数は７・・・つまり7体の魔物達がこちらに向かってきています。

緊張で心臓の音がドクンドクンと鳴るのが聞こえます。
今までこんなに多くの魔物達を相手取る事はありませんでした。
私はアラヤちゃんに気付かれない様にチラリと視線を向けます。

武器を握る手に力が入る。
最悪アラヤちゃんだけでも助ける・・・再びあの術式を使用する覚悟をします。

そして生い茂る草を掻き分けてぞろぞろと出てくる魔物達を前にして2vs7の大戦いが始まります。