ごめん、そう口にするサラミスに少女が向けたのは、まだ驚き冷めやらぬ目だった。
唇をあわせ終わったままの間近の距離で、彼の顔をじぃと見つめながら言葉を聞いていた。


「あの…」


そう声に出した後、まだ戸惑いを隠せぬように長い髪に手を触れた。


「…ありがとうございます、そう言ってくれて。
　びっくりはしましたけど…。」


小さく笑いを浮かべるが、その笑みはぎこちなさが残るものであることは彼にもわかる事だろう。


「私は、サラミスさんが貧しい人間だとは…確かに、物質的にはそうかもしれませんけど。
　…ごめんなさい、私、サラミスさんのこと、考えたらよく知らないけれど。
　生まれた環境も、これまでの人生の事も。
　でも、サラミスさんからは、生きる強さのようなものを感じるから…私、それがとても羨ましいんです。」


そっと指を伸ばし、彼の手に触れた。


「好きと言ってもらえて、嬉しい。
　…けど、今はこれ以上の事は言えません。
　アールさんの事は…、」


一旦途切れた言葉が、また戻るまでには少しの間だけ、時間がかかった。


「アールさんの事は、何て言っていいか、わからないですけど…。
　でも、少なくとも私には、あの人が涼やかな風のような人だとは思えていなくて。
　とても、臆病な人に見えるんです。」


自分がリンテントポーゼに帰った後の事を思うと、じわじわと心を蝕む罪悪感に少しだけ眉を寄せた。



















「…———あなたは、自由ですか？」


突然の問いかけに、彼は驚いたかもしれない。
指は自然と耳に輝く赤いピアスに触れていた。

唇が重なった時、頭に浮かんだのは今は亡き、このピアスの持ち主だった。
幼い頃の、遠い遠い記憶。