一揆参戦から八日——
いや、本格的に参戦する前から数えれば十日程は過ぎたのだろうか。
前の拠点を発つ時もこちらの世界へ来てからも暫くは忙しなかったからか、
どうにも自分と時間を忘れてしまいがちになっていたらしい。

　『……ジェイ？　え、本当に？』

——そうだ、活動の基盤を整えようと市場や王城前周辺を歩いていた時に見た姿に
まさかと思いながら声を掛け、懐かしさを感じる声を聞き安堵し、
それを機に頭の中に張っていた霧や靄のようなものが次第に開けていったんだった。

自分が勝手に恩を感じているだけかもしれないが、果たして自分はその礼を返せているのか。
自分の方が大分年上なのになぁ等と独りごちりながら、
中折れ帽を深めに被って表情を隠しながら、くつくつと笑ってしまう。

場所は変わって営業時間外で他に誰もいない時のBAR『Braun Tropfen』。
適当な椅子に腰掛けながらそう口を開くジェイと、
床に座っていたり椅子に腰掛けたりタライの中で跳ねたりカウンターの上で仁王立ちしたり
個性溢れるというか自由な彼のエンブリオが姿を顕現させていた。

他の人がいたらうるさいと言われそうな気がするが、案外この騒がしさは少し楽しいものだ。
だがやっぱりフリーダムやかましい。

ほんと自由だなあいつら。

この数日を振り返っても私も彼らも「個々人で」言葉を交わした事が無かった。
力を借りる時は種族の名で呼び彼らもそれで普通に応えていたが、
彼らに固有の名前があった場合それで呼んで欲しいのだろうか、と思い至ったのが半分の切欠。
残りの半分は周囲の参加者が自然と「名前を与えて」いる事が分かり、
エンブリオとしてもそうして欲しいのだろうか、と悩んだのが残り半分でもある。

そんな返答を受けてなのか、何故か彼らは顔を合わせたり他の顔をきょろきょろと見たりしだした。
そうした行動が数秒か、十数秒か、数十秒か続いた後、マーメイドがこちらを向いて言葉を紡ぎだした。

何故そこで疑問形。
さしあたっては彼らとの関係をどうするか、もう少し話をするのが望ましいのかもしれない。

　　　

　　　　羽織ったローブのフードを深く被り、大鎌を手にし対峙する。
　　　　　　うっすら、彼女の周りを薄い霧が漂っている様に見える。

　　　　
　　　　　張り詰めた空気が解けると、手にした大鎌は白霧となり辺りに霧散して消えた。