・・・夜は、空は、どこまでも続いている。

　ルグはその日、黒箱からある番号が書かれたメモを受け取った。
　それはずいぶん長い数字の羅列で、それでもルグにはなんの番号かわかってしまった。

　確認のために・・・と言ったところで、すでに黒箱の姿が消えているのに気付く。

　黒箱がいないのであれば、屋外に長くいる理由も無い。
　ルグはくるりと外に背を向け、襖を閉めた。


───────────……

　電話は、ルグが使える数少ない現代のツールの一つである。
　ルグの部屋には、時代から取り残されたようなものが謙虚に寄り集まって座っており、その中でも大変大人しい黒電話は珍しく埃をかぶっていない。
　ルグはそれをひょいとつかんで、メモにある番号を淡々と入れていった。
　ルグは小さな触手で受話器を取ると、耳元に持って来て、残りの触手で軽く腕を組み──

　・・・いや、彼女は受話器を取るなんて器用なことが出来るだろうか？

　ふと、そんなことを思う。
　数秒、細い触手で光る陣を描いて、改めて腕組みをしてしばし待った。


（・・・おじさん？）


　やがて小さな声が、電話越しに響いてくる。
　それにルグは安堵した。


───────────……

　（うん！いまはねーハロウィンっていうのがあってねえ…）

　無邪気な声が近況を伝えてくる。
　その近況を聞きながら、ルグは腕組みをした姿勢を崩さない。
　
　（いろんな、金平糖があってね・・・それで・・・えっと・・・）

　（・・・ん。おじさんのお話、聞くよー）

　（・・・そうなのー？）

　本当にその知識がないのだとよく分かるような声色にルグはもう慣れてしまった。

　（ん。おとーさん・・・。それ以外の人は、おにいさんとおねえさんっ！）

　ありす？ときょとんとした声。

　（お嬢さんのこと？何にもないよー？・・・あっでもハロウィンの洋服着せられちゃったりはしたかなあ）

　（だいじょぶ、だよ？んとね、黒くて、ひらひらがついてるの・・・前におとうさんが言ってた、ヘッドドレス？も頭にあるよ）

　若干不服そうではあるものの、元気そうな声が続き、なんとなく微笑んでいる娘の姿がルグには見える気がした。

　（うんっ　いいこにしてるの。ちゃんと大人になるんだー）

　（うーん・・・だいじょーぶ。いっつもきらきらしてて、たのしいよ。）

　（うん、おやすみなさい、おとうさん。）

───────────……

　そうして、受話器の向こうの音を、切った。
　なんとなく窓を開けて、空を眺める。



　・・・夜は、空は、どこまでも続いている。