不合格は学校からの拒絶ではない…尾方康記

　首都圏では、いよいよ入試が始まりました。

　帰国子女入試を皮切りに、首都圏以外の中学校の関東会場での入試は１月上旬、埼玉県の入試も１月１０日からスタートしています。千葉県では１月２０日からですね。

　そして、２月１日から東京都と神奈川県の入試が始まります。
　すでに合格を手にした人もいると思います。

　おめでとうございます。第一志望校であれば受験が終了ですね。受験勉強、おつかれさまでした。

　合格校以外にも受験が続く人は、気をゆるめず、次の試験までの準備に取り組みましょう。
感情的にならず、気持ちを切り替えて「前へ」

　一方で、合格できなかった人もいると思います。

　また、これから受験をする人で、不合格という結果を手にしてしまうこともあるでしょう。

　複数の学校に出願して連日の受験をする場合、不合格の苦しさやつらさを引きずっていては次の受験に差し障ってしまいますから、「前へ、前へ、進むんだ！」という気持ちの切り替えが大切になります。一方、次の受験までに少し間がある場合は、一度立ち止まって考えなくてはならないこともあります。

　不合格は、当然つらいものです。

　受験生本人もつらいし、ご家族も同様です。過去の例ですが、不合格の通知を受け取った際、感情的になってその通知を破り捨ててしまった受験生やお母さんもいらっしゃいました。そのお気持ちはわかります。

　しかし、「なかったことにする」という気持ちの整理ではだめなのです。
　合格できなかったことは、拒絶されたということではありません。
　受験の厳しさを考える際に、「入試は、サッカーのクラブチームのセレクションのようなものだ」というたとえをする人がいるとします。確かに超難関進学校の場合には、あてはまる部分があるとは思います。強者だけが勝ち残り、他の人はふるい落とされるという図式です。

　でも、大多数の学校、つまり、受験生を受け入れる側の先生方は、そんな考え方はしていないと思います。いくつか例をご紹介しましょう。
入試は「ふるい落とし」ではない…受験生を「引っ張り上げる」こと
　しばらく前になりますが、生徒に厳しい言葉を投げかけることで有名な、超難関進学校の校長先生がいらっしゃいました。その先生は、校庭で行われる合格発表の様子を校舎の上階の窓からご覧になっていて、発表後、喜んで手続きに向かう合格者の家族と元気をなくして帰路につく不合格者の家族が二手に分かれる様子に、涙をこぼされていました。　

　神奈川県の、あるミッションスクールでの話。午前に引き続き、午後入試でも合格できず、掲示板の発表を見た後、あまりのつらさに校庭の隅で泣き崩れてしまった受験生とそのご家族。様子を見ていたその学校のシスターが近寄り、受験生の背中をさすりながら「今はたしかにつらいものです。だから、泣いてもいいの。でも、前を向いてがんばりましょうね」という声をかけてくれました（なお、その受験生とご家族は、このできごとで同校に対する愛着がより強まり、翌日の試験で合格しました）。　

　同じく神奈川県にある、共学の難関進学校を訪問した時のこと。

　国語の入試問題を見ていて、あることが気になり、質問してみました。

「選択問題の問いかけで、『ふさわしくないものを選びなさい』という条件をわざわざ太字（ゴシック体）にされていますね。どうしてなんですか？」

　この問いに対して、その先生は、ご自身のお子さんがある男子校を受験して、失敗をしたことを話してくださいました。そして、その時に体験した本人や支える家族のつらさを考えると、問題作りにも工夫が必要だと感じたことも。

「受験生に文章を読ませることは、いわば道案内をしてあげるみたいなものじゃないですか。さあ、こっちに来るんだよ、まちがえないでねって、声をかけてあげたい。でも、試験ですから当然できません。うっかりミスなんかで点を落として、実力を発揮できないなんてもったいない。だから、そんなふうにしてみたんです」

　都内の、ある難関男子校の校長先生は、入試当日に受験生を迎える時、ミュージシャン・ゆずの「栄光への架け橋」の歌詞が頭の中で繰り返されるそうです。受験生とその家族がここに至るまでの日々とその思いを考えると、身が引き締まるとおっしゃっていました。

　このような先生方がいてくださるおかげで、入試は、「ふるい落とし」ではなく、受験生をひっぱり上げてくれる機会だと、私は感じています。

原因を見直せば、再び立ち上がれる

　不合格はつらい。でも、「おまえなんか来るな」と拒絶されたのではないのです。入り口のドアを見まちがったり、少しばかりつまずいて転んでしまったりしたようなもの。見まちがいや、つまずきだから、なにか原因があるわけです。そして、再び立ち上がってドアを開けることは、可能になります。

　ふだん教わっていること、過去問題を解いた時に気をつけなくてはいけなかったことを見落としていなかったか、いつもどおりのことをきちんとやれたか、などなど。この時期だからこそ、まだふりかえることができます。

　つらい失敗に向き合うことは、みなさんを大きく変化させ、強くします。成長させます。

　特に２月以降での受験では、前を向いて進み続けることが大切です。２月以降が本番の受験生にとっては、今の時期の苦しい体験は、短時間で気持ちを整理する鍛錬だと考えましょう。

　どんな受験生も、ぎりぎりのところで自分自身と闘っています。

　でも、一人ではありませんよ。支えてくれるご家族や塾の先生がいます。そして、みなさんを引っぱりあげようと手を差し伸べて待ってくれている志望校の先生方もいますよ。

　負けないで。