姿を変えたサラマンダーは、いつかのタンポポ荘での一日のように、ミニドラゴンに乗って大空を飛び回っていた。

紅茶を手にしたシツジが、ポーンとともにそこへやってくる。

140cmほどの身長になり、ほぼ人間と変わらぬ姿となった彼女。
だが、サラマンダーはただ姿を変えただけではなかった。

あれから「一億ページの辞書」を使い、タンポポ荘の皆とサラマンダーの変化について調べていくうち、
驚くべき結果にたどり着いてしまった。

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「わかりやすく言うと、サラマンダーちゃんは普通のエンブリオじゃないです。」

「普通のエンブリオではないなら何なんだ。・・・神様か？」

「神様というよりは、その・・・」

「普通の人間です。少なくとも、「サラマンダー」というエンブリオでは無くなっています」

「ほう、いいじゃねえか、娘が出来たみたいでよ。」

「人間のエンブリオ？」

「契約の強さ、エンブリオの意志の強さ」

「それらに満たされた器にアスモデースさんが介入し、それをきっかけに変異したのでしょう」

「ゆうべはおたのしみでしたね」

「意外な趣味をしておるのう」

「話逸れてんぞ。つまり何だ、ありゃエンブリオだけど人間って認識でいいのか」

「・・・【限りなく人間に近いエンブリオ】。そう表現するのがよろしいかと。」

「愛の力で姿を変える。まるでお伽話みたいです。」

「娘、娘か・・・そうか・・・。」

「何ボーっとしてんだよ」

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木陰で、ひとり呟く。・・・サラマンダーを守らなければ。

花畑からドライアドがひょいと顔を出す。

ドライアドが庭の花にそっと手を伸ばす。

花をそっと手折り、握りしめる。花は一瞬で枯れ、手を離すと地に落ちた。

地に落ちた花がみるみるうちに土に還る。

ドライアドが手折った花の茎に手をかざすと、そこに同じ花が咲く。

ドライアドが、先程の花を地面から引き抜こうとして、手を止めた。

脅威として脳裏に浮かぶのは、畑羅木卓内の顔。

……遠くから破裂音が響いてくる。何かが高速で接近してくるようだ。

伸ばした腕でアムフェイの服を掴むと、身体ごと掻っ攫った。

扉があればブチ抜き、階段を強引に登り、兵が居れば丸太で薙ぎ払いながらの進撃だ。
止める者など誰も居ないと言わんばかりの突撃隊は、
気付けば現在一揆衆が辿り着いている城内最奥部、三階廊下にまで到達していた……。

……遠くから破裂音が響いてくる。

ニスイの姿を確認するや否や、アムフェイに襲いかかる突然の衝撃、ともに視界が一回転。

わけのわからないうちに、ニスイの操作するバイクの荷台に放り投げられたと気付く。

バイクは現れた時と同じように爆速で走行を続ける。

レッドドラゴンが荷台から飛び出し、10秒前までアムフェイの横にいたサラマンダーの処へ向かう。

サラマンダーを素早く持ち上げUターン、バイクにはなんとか追いつきそうだ。

ようやく停止したバイクの荷台からヨロヨロと降り立ち、頭を押さえる。

振り返れば・・・砕けた扉、車輪の跡が残る通路、倒れた兵士。

床には割れた仮面、曲がった銀食器など・・・見るも無残な有り様である。

サラマンダーが何か閃いたかのように目を見開き、声高に宣言する。

そう言って、ニスイは一歩前に出て丸太を構える。

サラマンダーの大声に気付いたのか、3階廊下を闊歩する魔物達が集まってきていた。

ニスイに並び立ち、炎の剣を構える。

壁に向かってフルスロットルで突っ込んでいく。
迫り来る壁。「チキンレースだ」と叫びはしたが、止まる気など一切無い。

城を揺るがすような破砕音が響く。
しかし、ここは三階である。