飛竜のエンブリオを求め、星屑の山岳へと集いし徒然なる者達。

山岳に居る敵は危険種ばかりではなく、他者を襲うに抵抗無き人狩りが潜む。

その危険を潜り抜け、開けた山頂に出た俺達の前に吹き付ける様な風と共に現れた影が四つ。

眼前に見えるのは予想以上の数だった目当ての飛竜が三体、そして焼き鳥が一羽。

力と力がぶつかり合うこの試練を超えてこそ、一歩先へと続く道が開けるだろう。

ギラギラと刺す陽光を遮る雲は無く、砂塵舞う枯れた地面を気まぐれに風が吹き抜ける。

星屑が如き山肌を撫でる風は荒々しく強い。



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俺が軍に所属していた頃の生活でも話そうかと思ったが・・・・・

まぁ、お前には退屈でつまらん話ばっかりになりそうだからな、適当に想像しておけばいい。

どっかで聞いた事のある様な話と似たり寄ったりな暮らしだった。


ともかく、軍を除隊した俺は故郷に戻る事も無く、働くあてがある訳でも無く、身を寄せる知り合いがいる訳でも無く。

ただふらふらと身体の赴くまま、心の赴くままに旅をしていた・・・・・・放浪ってやつだな。


その当時の俺はとにかく渇いていた。

渇いた俺を潤わせる何かを探し求めて旅を続けてた。


美味い飯や心震わせる風景や音楽、見知らぬ人との出会いも野党との戦いも何もかも全てが、俺を癒す事は無かった。

浴びる様に酒も飲んだ、極楽を見せるという煙草も試した、時にはヤバい薬に手を出しもした。

聖冠と謳われる賢者にも出会った、山賊ギルドを壊滅させて小さな町を救ったりもした。

だが、俺には何も感慨も浮かばなかった、何も響きはしなかった。

全てが味気無い草を噛み続けている様な空虚感で満たされていて、その時の俺は全てが灰色掛かって見えていた。




まぁ、そんな旅を何十年と続けていたある時突然だったな・・・あいつと出会ったのは。


確か・・・強い風が吹いていた初夏の頃だったっけな。

忘れもしねぇ。

見上げれば大地を照らす太陽と、真っ白な雲が緩く棚引く突き抜ける様に青い空。

青々とした草木の香りを運ぶ風が吹き抜ける風光明媚な草原の中だった。


足元の獣道を確認していた俺が、ふと前を向いた時には既に＜あいつ＞が居た。

ただ、風に吹かれる様に立って俺を見ていた。

大地に芽吹く草よりも深い緑色の瞳をこちらに向けて。

山を脈動させる木々の葉よりも強い緑色の髪をなびかせて。


笑顔だった。

その微笑を見た者全てを安心させる様な。

だが、それでいて触れてしまえば脆く崩れ去る様な。

それでも俺は知らず腕を伸ばしていた。







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あれから俺は庭園の兵士を蹴散らし、緑色の川の精霊と牙を持った巨大な体躯の野生動物をブッ飛ばした。

そして平原で茨の精霊と傷持ち兎を叩きのめし、鈍銀の精霊と小竜を倒した先にある小さな砂丘の町で休んでいた。


何をするでも無くぶらりと街に繰り出して屋台や露店を巡り、食事をしたり珍妙なお守りを買ったり。

日が沈めば夕食をとって宿へと戻り眠る。

そんな日々を繰り返していたある日、ふと町角に張り出されている掲示板を覗き込んで見た。

そこには＜＜山岳での飛竜討伐参加者を募集中＞＞と書かれた記事があった。

何が俺の琴線に触れたのか・・・「有る程度戦える方」と書かれた一文だろうか。

気付けば俺の顔に薄く笑みが浮かんでいた。





翌日、俺は募集記事に書かれていた宿の食堂に来ていた。

勿論食事するだけでなく募集に参加する為だ。


そこで待っていた募集主は・・・またしても少女だった。

クローナという地属性の魔力を濃く漂わせる素直な少女。

傍らに少しズレた口調で話す石の生命体をお供にしていた。

その身体は年相応な柔らかさがある様に見え・・・だがしかし何故か硬そうな感じもした。


自己紹介を終えてしばらく待っていると、ふらりと一人の男がやって来た。

享楽と名乗る人間では無い雰囲気を漂わせた色々と軽そうな男。

文献で読んだ事のある東の民に服装が似ている気がする・・・

飄々と言うよりは軽々といった風な性格だ、第一声が「嫁探し」に聞こえたのは気のせいだろう。


そして更にもう一人やって来た。

名を浮遊太郎と言っていた見るからに浮遊霊である青年。

俺の故郷ではレイスと分類されるであろう、見事なまでに青白い姿をしていた。

何故か時折傍にいる猫を師匠と呼んでいるが・・・まぁ、よく分からんが本人の勝手だろう。



誰がいつの間に注文していたのか、料理や飲み物が次々と運ばれて来た。

素早く視線を巡らすと、(素直な)笑顔・(ご馳走様という)笑顔・(表情の読めない)笑顔・・・・・・・また俺が支払うのか、おい。

一時とはいえこれから共に戦闘を行うのだ、どこの誰が決めたのかは分からないがこれも一種の儀式の様なものだろう。

こうして出会えた事への感謝と、目当てである飛竜に出会える事とその討伐を無事終える事を祈願しての乾杯だ。

掲げた杯が鈴の音の様な高い響きを立ててぶつかり合った。



こうして山岳へと向かう面子が揃った。

全く、集ってみりゃあ俺を含めてまともであるヤツが全然いやしねぇな、おい。

・・・・・だが、これは面白くなりそうだ。



そういや、エインセルについて俺が知っている限りの事を話そうと思ったが・・・・・時間が無いんでまた今度だな。

まぁ、ドゥーロさんなら大丈夫かも？ですけど って言いつつ

同意を得るまでもなく、独りででウンウンとうなずいている。

爺さんもいるしね、と付け加えた

ミソスープを一口啜る