※よくわかるあらすじ　コヒメさんが前回の戦闘でカッパ達に負けました。

　息を継ぐ間も無く、新たに長大な胡瓜が口の中に押し込まれる。
アタシのペース配分なんてお構いなしにねじ込んでは、喉奥へと突き入れる。無理矢理入れ込まれると、一層呼吸が苦しくなる。
ホントに、今の状態は、キツい。必死になって息を吸うのが精一杯で、何も考えられなくなってきてる。逃げられないように背後から拘束されていているけれど、逃げ出す体力なんてとっくに尽き果てているし。
なんとか顎を動かして、押し当てられた胡瓜を必死で噛み砕く。瑞々しさで満ち溢れた実が細かく砕いて、必死に飲み込んでいく。
「ふふ…ようやく食べ終えたか」
「在庫処分に回す筈の胡瓜をこの狐の小娘に食わせるなんて、さすがアニキッス」
「食べ物を粗末にするのはいかんからな…ふっ、我ながらいい考えを思いついたものだ」
前後でカッパ達の漫談が聞こえて来るけど、完璧には聞き取れなかった。しんどくてそれどころじゃないのよ。胡瓜で酸欠になりそうになっていたから、必死で息をするのに専念する。
　口を開け大きく息を吸い込んでいると、前にいるカッパが顎を掴み、勢いよく胡瓜を口へ突き込んだ。
「何を休んでいる…まだ在庫処分に回す胡瓜は沢山あるぞ？」
喉元まで胡瓜を押し込まれる前に口を動かして、細かく砕いていく。小片が肺の方に入らないように勢いよく飲み込む。それでも押し当てられる胡瓜の勢いは弱まらないので、飲み込めなかった分はボロボロと口から零れて落ちていった。
もう、こんな奴等に負けさえしなかったら。ひたすら押し当てられる胡瓜を噛み咥えながら、カッパ達に対する怒りが頭をよぎる。その瞬間、胡瓜が喉奥に当たり、強烈な嗚咽感がアタシを襲った。胃液が逆流しそうになり、身体が震えて咄嗟に手で口を覆いたかったけど、後ろから押さえつけられてそうもいかなかった。
「あー、やっちゃったッスね」
「ふん…小娘にはきゅうりは早かったか…」
口内に入れられた胡瓜の動きが止まって、必死に酸素を求めて息を吸い求める。見下ろすカッパと目が合うと、途端に目に涙が溜まってきた。悔しかった。されるがままに胡瓜を咥えされ続けて、なにも出来ずに従うだけ。そんなアタシ自身に、どうしようもなく悔しくなった。
潤んだ瞳で見上げるアタシを見ても、カッパは顔色を変えることなく再び胡瓜を動かし始めた。
喉奥に押し当てられると、また身体が震え始める。しかし今度は、押し当てられる胡瓜の動きが止まることは無かった。
「お前に胡瓜はまだはやい…しかし、最後まで胡瓜は食べてもらうぞ…」
何を言っているのかはもう理解出来なかった。感情が溢れ出て、何も考えられなくなってしまったから。我武者羅に暴れたくて、身体を揺さぶろうにも拘束を振りほどくことも出来なくて、涙を流す事しかアタシには出来なかった。泣きながら胡瓜を咥えて飲み込んで。ただの言いなりになって、従って。

カッパ達に従っていると、だんだん、楽な気分になってきた。疲れている感覚が鈍くなってきて、ぼんやりしてる、夢をみている感じ。

ああ——何か、もう、いいよね。ぜんぜん、頭が、まわらない、し——



「…む、どうした。口の動きが止まっているぞ」
「アニキ、この子さっきから気を失っちゃってるッスよ」
「なんと…他愛の無い。ならばこの小娘は用済みだ。その辺に捨てておけ」
「了解ッス〜。ところでアニキ、残りの胡瓜はどうするっすか？また誰かを襲って食べさせるッスか？」
「ふむ、そうだな…いや、待て。暫くは我々だけで食べようかと思う」
「ええ〜！こんなカロリーのないやつ食べたくないッスよ〜。オレ達、一昨日から散々食ってるじゃないッスか〜」
「まぁ待て。暫くは…コレを使って食べようかと思う」
「また味噌ッスか？」
「いや、ハチミツだ」
「ハチミツ！？何でそんなものかけるッスか！？駄目ッス！邪道ッス！胡瓜への冒涜ッス！」
「いいやそうではない。落ち着け、別に邪道を志している訳ではないのだ。小耳に挟んだ情報なのだがな、胡瓜にハチミツというものをかけるとな…」
「じゃあ何スか」
「うむ。小耳に挟んだ情報なのだがな、胡瓜にハチミツというものをかけるとな…メロンの味になるらしいのだ」
「…それ、マジッスか！」
「ああ、本当らしい。だから今日から、残った胡瓜にハチミツをかけてメロンにしようかと思っているのだ。搾って炭酸を入れればメロンソーダにもなるようだからな」
「すげーッス！さすがアニキッス〜！はやく試してみるッス〜！」
「ふん、そう褒めるな。では帰ったら早速、山積みになっている胡瓜に———」

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