「さて、今回はこの街の視察かー」
「お主の場合、視察とは名ばかりの観光だと思うがなぁ」
若草色の耳をぴこんと揺らして呟くと、先程まで誰もいなかった空間から返答があった。
「む。悪魔とやらはそんなに暇なのか？　サタナエル」
「にゃ？」
軽く伸びをしながら、柔らかな灰色の髪を揺らす姿は猫を連想させる。
白いニットコートとホットパンツ、サンダルという動きやすそうな服装に身を包んだ少女は、陽気な声で歌うように笑った。
「にゃっはー、悪魔は色々とフリーなのだよっ」
「単に仕事がないだけじゃねーか。やーいニートニート！」
「失礼な、人生を探求しているだけだ」
「なんかカッコイイ言い方してるけど同じだー！？Σ」
「まあまあ気にするな。
　——ところでアテはあるのかい。
　降下界で弱体化した身では一人旅は苦しいのではないかにゃ？」
「心配いらねー。道連れのアテも既に在る」
「おお」
ひゅうと口笛が朝の空気を裂いて行く。
「流石は大天使ミケーレ。てっきり連れが出来ずに泣くものと思っていたが、いやはや要らぬお節介だった！」
「別に泣かねーし！！
　兎も角！　褒めても何も出ねーぜ？」
「勿論だとも。お主から出てくるものになんら期待していないというか出来ないというか……。
　万が一何か出されたところでがっかりイリュージョンになるのは目に見えているというか……」
「おい」
「冗談だ」
お互いに視線を交わして一呼吸。
「何かあれば声をかけるが良いんだぞ。契約主が現れる（しごとがみつかる）までは儂も暇だ」
「誰が呼ぶか。つーかどうせ勝手に出てくるんだろ」
「それは仕方ない。猫は、”どこにでもいて、どこにもいない”のだよ。にゃーん♪」
「はっはっは、かの偉人も悪魔にまで適用されるとは夢にも思わなかっただろうけどなぁああああ！！」
「うにゃー、いひゃいいひゃいいひゃい」
可愛らしくシナを作る少女の頬を抓っておいて、思考を切り替える。
「むう。とりあえずミケは降下界で疲れたよ。今はふかふかのベッドが恋しいや」
「就寝も良いが、その前になにか腹に入れないか？」
「サタナエルにしては良い考えじゃねーか。
　朝マスはこの世界ではやってるかな？　ホットドッグが結構いけるんだぜー」
足取りも軽く、腹拵えへと足を向ける。
取り敢えずは急速に迫って来た小腹の隙間を埋めるのが先決だった。

そういうと中を開け、弾が一つもないことを示した。

【※丁度今回から成長後の容姿（身長150㎝くらいから160㎝弱程度に、年齢は12歳→14歳）になるので、ミケさんとは成長後に会ったことにさせて下さい…！】

突然の毛並み評価に戸惑いを隠せないながらも笑顔で。

それにしてはなんか違うような気もするけどと呟き。
観察するようにまじまじと見つめ返す。
相手が名乗ったのにはにっこりと微笑んで。

大丈夫？と首を傾げて心配そうに。

言いつつどうぞ、と触れやすい位置に頭を下げた。

（背中に軽い衝撃を感じ、振り返るが「歩く鶏肉」と聞くとぎょっとして）

（ジーパンのポケットを漁り）

（少し潰れた箱からキャラメルを数個取り出し、差し出した）