ファイは目の前の出来事に、ただただ驚くことしかできなかった。
ヤタと話している途中で突然視界が暗転し、
気が付いたら自分以外の誰かが身体を動かして、喋っている光景が見えたのだ。

モニターを通して、画面の向こうを見ているような感覚。
それは常にレイラが味わっているものであり、
つまり今のファイはレイラがいた位置と入れ替わっている。

だがファイには、それを理解することはできなかった。
前にも一度、似たような出来事は起きていたのだが、
ファイはそのとき現実とは程遠い、自身の深層心理を模した世界を彷徨っていたのだ。

そのため、レイラの存在をファイは知らない。
この状況を理解することもできなかった。

ファイが混乱している間に、場面は変わる。
レイラはヤタと別れると、平原の花畑に移動した。
そこはファイにとって見覚えのあるところだった。

以前、数えきれないほどの花冠を作った場所。
どうしてここに来たのだろう？
疑問がますます膨らんでいく中、
レイラは以前のファイと同じように花冠を作り始める。
けれど、それはお世辞にも手際が良いとは言えない作業風景だった。

その花を選んではいけない、結ぶ所が違う、形が崩れてしまう。
ファイはとにかく、口出しがしたくなった。
何故こんな場所に来たのか、自分の身体を動かしているのは誰なのか。
そんな謎を頭の片隅に追いやってしまうほどに。

だから勢いに任せて、レイラに届くように声をかけた。








ファイの声が聞こえた瞬間、レイラは我に返ったように顔を上げた。
思わず周りを見回すが、誰もいない。
当たり前だ、ファイは自分の身体の中にいるのだから。


「せめて、何かの形でメッセージを残すべきだとは思うが」


ヤタから言われた言葉を思い出す。
ファイに事情を説明しなければならないことは、レイラ自身もわかっていた。
だが、冷静ではない思考のままに話をしてもいいものなのだろうか？
感情が先走って、自分の余計な主観も喋ってしまうかもしれない。
そのことが頭に引っ掛かり、レイラはファイと会話することを今まで躊躇していた。

けれどもう、逃げることはできない。
ファイから話しかけられてしまった以上、向き合わなければならない。
レイラは意を決して、返事を返した。

そうじゃない？
返ってきた反応が予想外のもので、レイラは首を傾げた。

レイラが手に持っている花冠を指さすと、
ファイは肯定するようにこくこくと頷いた。

自分の身に起こった出来事に疑問を覚えているのではないのか。
レイラは困惑した。
ファイが話しかけた動機が、
それと全く関係ないことには気づいていなかったのだ。

その返答にレイラは思わず呆れてしまった。
忘れてはいけないだろう、それは。

変わらないですね、と続けようとしてはっと口を押さえる。
……そうだ、妹には何かに夢中になると
周りが見えなくなるところがあった。

やはり、根本的には妹なのだ。
その事実に改めて気がつくと同時に、
レイラの心の中にはある一つの決心が生まれた。

元の妹の名前で呼んでも、特に何の反応も示さなかった。
当然だ、覚えているわけがない。
何を期待したのだろう、と自戒してから、改めて呼び直す。

レイラは優しく笑いかける。
ファイがどんな表情になっているのかはわからないが、
きっと興味津津と言った目でこちらを見つめているのだろう。
……途中で拒否されなければいいのだが。
そうならないことを祈りつつ、レイラは話を始めようとして——

ファイに制止された。

今のファイにとって一番大事な存在を忘れていた。
そういえばようせいも、ファイの身元を知りたがっていたことを思い出す。
しかし今ようせいは、この場にいない。

微妙に曖昧な返答に、レイラは少し困った。
……まあ、言われた通りにすれば大丈夫だろう。

名前を呼ぶと、目の前が少しだけ瞬く。
そのまぶしさについ瞼を閉じた後、そっと目を開けると
ファイの言葉通りにようせいが現れた。

そう説明すると、ようせいはずいっと身を乗り出した。

このままではきりがないと判断したレイラは、一つ咳払いをする。

そう言って、レイラはゆっくりと話し始めた。

　肩を落とす様子に気が付くと、慌ててフォローするように笑みを浮かべる。

　なんて、そんな心配は不要だと思うけど——と言って、軽くファイの頭を撫でようと手を伸ばした。

ファイの手を引くと、辺り一面色とりどりの春の野花が咲き乱れている野原へと二人で移動し。

沢山の花々の中からシロツメ草を摘み取っては集めていく。

残念そうに呟くファイの頭を優しく撫でて微笑み。

思わず苦衷に手を伸ばしてふわりと空気をかき寄せるように集めて。

しばらくすると狼は一声鳴いてゆっくり立ち上がると尾をぶるんと大きく振り。

ファイが嫌がらなければ手の甲をぺろぺろと舐めて感謝の意を示してから再び人型に戻っただろう。

質問に首を傾げますが少し考えると意味が理解できたようであぁ、と笑って

勝負をしてPSを奪う。当たり前のようになっていたことを指摘されて少し表情が曇る

また思い出してしまう。　手にかけた兵士どものことを。　相手が相手であれど殺人であること。

自分も悪い大人の好例となってしまったことにただただ絶望し、立ち尽くしてしまった。