（これは4日目終了後の話です）

奴の声が、日に日に大きくなってくるのを感じる。
僕の一握りの正気を、闇の中へ引きずり込もうとする悪魔の声。
自分の奥底が、どうしようもない程壊れているのは、自分でもわかっている。

だが、僕はここで壊れて、寝転がっている訳にはいかない。


僕の世界には、ヒーローは居なかった。
僕の家族が、七日の中の一日だけ、テレビに齧りつくように見ていたヒーロー。
悪を倒し、人々に笑顔を取り戻してくれる、正義のヒーロー。
そんなヒーローが居てくれたら、と、何度思ったかわからない。

僕みたいな悪の怪人が、そんなことを考えるのは滑稽だけれど。
世界を、もしも救ってくれるなら。支配も管理もない、神も居ない世界を作れるなら。
それだけで、僕は満足するだろう。喜んで、ヒーローに倒されるだろう。

だが、そんなヒーローは居なかった。
『彼女』が泣き叫んでも、『彼』が助けを求めても、英雄は姿を表さなかった。

世界を奪えばよかった？世界を見捨てればよかった？
そんな問の答えだって、壊れかけた頭の中には浮かばない。


ああ、この世に理想郷なんて物があったら、どれだけ素敵なことだろう！
しがらみも恨みつらみも悲しみも無い、理想の世界がそこにはあるはずだ。
だけど、そんな物は無い。僕はよく知っている。

所詮、理想郷があったとして、人間はそれを食い潰す。
それを止めることは出来ない。たとえ、何が人間を管理しようとも。
だけど、その愚かさを失ったら、人間とは何なのだろうか？
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リブラがナノに投げかけた質問は、

ナノの予想の範疇外にあるものだった。

ナノの声が、どんどんとか細くなっていくのが手に取るようにわかる。
その時、

耳を劈くような笑い声が、部屋の空気を切り裂いた。

その声を、リブラが制する。

リブラは、顔に静かに手を当て、何かを残念がるように首を振った。

ナノが震えながら、リブラの腕にしっかりとしがみつく。当然だろう、怒りと恐怖を覚えるのは無理もない。

リブラは考えた。コイツを消すにはどうしたら良いか？
コイツは、自分の心の奥底にへばりついている。まるで、黒いシミのように。
そしてコイツは、自分の心にある「狂気」を、増幅させ続けている。
「狂気」に落ちた時、僕が一体どうなるかは分からないが、少なくともコイツに都合の良い展開になるのは間違いない。
最悪、体をコイツに乗っ取られる事も覚悟しなければならない。
そうなったら、僕はともかくとしても、彼女に危害が加わる。
だったら。

そう言うと、リブラは外へ飛び出した。

後ろから響くナノの叫びに、振り向くこともせずに。

走りながら、リブラは、ひどく落ち着いた声で言い放った。

リブラは、夜の闇の中をひた走った。
たとえ二度と戻れなくても、彼女を殺させはしないと。

「彼女」を、「二度も」殺させはしないと。


4日目　ヒーローと怪人

ウィルトは　とつぜん　くしゃみを　した

＞声

＞リブラ

ウィルトは　しんちょうに　あいてを　みている。