—航海日誌十日目—

さて……先日、デルフィニ達の推薦に従い、アルミ・カーンなるエンブリオと契約を結んだ。
鉄の体を持つ大男、といった風貌のエンブリオである。
確かにその膂力は大したもので、契約した俺にもしっかり還元されているようだ。

……しかしなんというか、なんというのやら。
それでもやはり彼をメインに据えている自分、という物がまったく想像できない。
どこまで行っても俺は海の男で……いや、海の男だと自分を納得させているのだろう。
なにせそれ以外の生き方を知らないのだから。
まぁ、その生き方を失ってしまったからこそ、今の俺は砂漠なんぞにいる訳だが。

はて、俺はいつか自らの生き方を見つけることができるのだろうか。
あるいは、海の男と言う生き方を取り戻すことができるのだろうか。
どちらにせよ、大きな波を一つ乗り越えなければならないのは確かだ。
この航海の先に、答えがあると良いのだが。

スッと手をかざしながら、太陽が赫々と輝く空を見上げる。
その日差しは確かにかつて甲板で浴びたものと同じかもしれないが……

おお、海の男がどうして乾燥した空気に慣れ親しもうか。
初めてと言える体験に、シーガルもすっかり辟易しているのであった。

デルフィニ？　文字通り茹ったよ。


＞ケンドリック

元騎士という庭師と戦い、惨敗を喫したのは記憶に新しい。
彼に勝つための景気付けというのであれば、さぞかし気分も乗るのだろう。
まぁ、それも無事にこの砂漠を抜けてからの話なのだが……

はて、この黒づくめの少女をどう量ったものか。
いやさ関係はあるまい。立ちはだかるというのだから、倒せばいいのだ、倒せば。
担いでいた銛を、軽く振ってから逆手に持ち変える。
銛を撃ち出すための構え。鯨捕りが誇りとする、戦の構えだ。

銛を素早く逆手に持ち変え、弓を引き絞るように右手は後ろへ左手は前へ。
深く腰を落とし、“漁”の構えを取った。