【憂梟の手記の断片】

　——……だから、近付くのは嫌だった。アレは近付いてはいけないものだった。『回収』なんて与えられた任務に固執なんかしないで、僕はさっさと離れるべきだった。僕は平気でも彼は平気じゃない。唯の人間だ。唯、『　　』に選ばれてしまっただけの、哀れな被害者に過ぎなかったのに。
　僕は余りに無理解だった。否、違う。甘えていた。『　　　　』とは違う、心地よい甘ったるさに浸っていた。
　嗚呼、なんて馬鹿だったんだろう。愚かな事にも、　は、　　移　かえを　

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「は、」
ぼたり、と地に紅が落ちる。ラウロのヒールでは追い付かない。塞がりかけの傷を手の平で覆った。どう見ても、不利。足はうまく動かないし、思考も働かない。こんなところをあの魔女に見られたら——いや、見ているのかもしれない。
「あ、ーあ、」
　こっちでも『アレ』が使えたら苦労しないのに。僅かな苦笑い。上手く逃げ出すことも出来ず、立ちはだかるその男を見て、ただただ苦笑いを浮かべた。

　その言葉には、僅かに目元を和ませる。
　

　『ここ』なら動き回れたりはするんだけど、とは付け加えて。
　

可愛らしい人だなあ、なんて感想を口には出さず思う。

ふらふらしてたら巻き込まれちゃってね、と付け加え。

可愛いと形容して差し支えない生き物を、どこか見守るような視線で見つめた。