ヴェスの膝上を陣取るカッパとドールは、二人仲良く眠っていた。すいよすいよと寝息を立てて眠っている様は、いっそ微笑ましい。山を下る最中、そんな風に思考しながらメラルドは周囲に目を光らせていた。
　当初は登る事すら困難だった山岳に容易くとは言えないまでも、足を運べるようになったのは、メルンテーゼでの生活の賜物だろうか。
　メラルドとしては、もっとヴェスには良い生活をして欲しいと思わざるを得ないのだが、それも此処では贅沢な話か。

　山を下り森を抜けたその後の行き先は、城内だと言っていた。欲しい物があるのだと言う。
　無事それが拾えれば御の字だね、と笑ったヴェスの目元には、薄らと隈が出来ていた。
　──眠れていないの、と問う事は出来ず。ただ、そっと息を吐いてその小さな頭を撫でてやれば、「子供扱いはやめてよ？」と屈託ない笑顔で言われるのだから。……たまったものでは、ないな。

血という言葉にはまだ納得がいったようだが、決闘がポピュラーと言われた言葉に娘にしては珍しく驚いた表情で。

興味深いですね、としみじみ声を。
視線に気づけばこちらも口を開き。

もしエンブリオから見染めてもらわなければいけなければ大変です。なんて笑いながら。

無言で小さなエンブリオの姿は、翼を背負う女に形を変える。