——全てが終わり、アムルイの計画は不完全に終わった。
　気に病むことはないと、協力者の多くはそう言った。
　どの道、今回の件で民には王家への不信感が生まれた。
　いつまでも以前のように支持されることはない。
　なればこそ、自分達の——暫定議会の役割もある筈だと。
　これはまだ未来への投資の途中なのだと、そう言われた。

　これからは武力ではなく弁論の時代だろう。
　その行く末を左右するのに、自分のような武辺者は必要ないのだ。

　できる限りのことはした。
　多くの疑問を得て、多くの問いを投げかけた。
　そうして答えを得て、正しいと信じたものを目指した。
　脇目も振らず、自らを顧みることもなく、ただ走り続けた。
　自分はどうなっても構わない。
　せめて民の多くが幸いであるようにと、身を穢し続けてきた。

　その生き方を、今更悔やんだりはしない。
　誰かのための捨て石になる生き方を受け入れ、納得したのは自分だ。
　己の幸福など最初から選択肢になかっただけ。
　幸せになりたいなどと、願うことからして間違っている。
　誰かの幸いに繋がるのであれば、喜んで犠牲になるべきだ。

　だけど。

　そう、だけど。

　本当に欲しかったのは、人々の幸福な未来ではなく。
　山野で狩りをして暮らすだけの、穏やかで何もない日々。
　捨て石になることを受け入れた自分が、必要とされないことをこそ願った。

　だからこそアムルイは願ったのではなかったか。
　多くの民が幸福になることを。
　民が自らのことを、選び決められるようになることを。
　自分もそうなりたかったと、本心では望んでいたからこそ。

　そして今、アムルイには果たすべき未来などなくなった。
　まがりなりにもその役割を果たし、捨て石という生き方からは解き放たれた。

　帰る場所はない。
　目指すべき明日もない。
　あるのはただ、寂寞と広がる無限の可能性だけだ。

　呟いて、彼女は空を見上げた。
　今ならどこへでも行けるような気がする。
　何かをしたいとも思わないけれど。
　それを探しに行くのも、悪くはないだろう。

　一匹の雌犬はそうして歩き出した。
　失い続けた彼女が、また何かを得ていくために。
　まずはどこへ行こうかと、己に問いかけながら————。