惑え迷え人の子よ。
　惑いの先にこそ問はあり。
　迷いの中にこそ解はあり。
　されど人の身に、いずれも負えるものでなし。

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　——闇の中に剣戟が火花を散らす。
　アムルイは襲撃者の刃に対し、片手で器用に抜刀した刃で以って対抗。
　敵の数は四。目立つことを嫌い、一揆衆の小隊単位に偽装したものか。
　前衛を務めるのは、目の前の男一人のみ。
　残る三人は得物からして後衛か、あるいはそうと見せかけているだけか。
　いずれにせよ、これはそういう手合だ。
　何かを画策し、自分を狙って襲いかかって来た、倒すべき敵なのだ。

　近頃のアムルイは森での活動が増えており、待ち伏せは不可能ではないだろう。
　その活動の内容からしても、どこで誰に恨みを買っているか分かったものではない。
　ただし、直接手を出して来るとなれば話は別だ。
　殺気立った個人はともかくとして、組織で狙って来るとすれば心当たりは一つだけ。

「フロックハート商会の雇われか」

　ぽつりと呟いた言葉に、襲撃者達が僅かな身動ぎで反応を示す。
　自分を相手に隠し通すつもりはなかったのだろう、動揺している様子はない。
　しかし相手が分かった以上、ただで帰すわけにはいかない。
　単純な武力の激突ではどうなるか、思い知らせてやる必要があった。

「ハ——ッ」

　アムルイは後ろに跳んで、剣戟を続ける男と距離を取る。
　そうなれば後ろの三人が、すかさず追撃を叩き込むのは自明の理。
　そうなると分かっていれば、これまた対処も容易である。
　矢と魔法が放たれた瞬間、アムルイは高く跳躍していた。

　襲撃者達は思うだろう。
　一撃を逃れただけで、もうそこに逃げ場はないと。
　彼らは喜色を露わにして、これで終わりだと最大の火力を叩き込む。
　——そしてアムルイは、空中で強引に身を捻り、慣性を横方向へ引っこ抜いた。

　彼らの目を奪う、人体合理の結晶。
　その回避運動を行うためには、どれほどの修練と才覚を必要とするのか。
　後ろ暗い稼業であっても、武の道を歩んだ者であれば、活目せずにはいられない。

　故に、彼らの反応は遅れてしまった。
　殺し合いの中で、敵に見惚れるなどあってはならない愚挙である。
　その動きを見たいと望むなど、首を差し出すのと変わらない。
　この戦いは、この瞬間に結末が決まっていたのだ。

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「——ふぅ」

　吐息を洩らし、アムルイは返り血を袖で拭う。
　結局、襲撃者達は三人を殺し、一人はわざと逃しておいた。
　ただでは帰さないが、首が三つもあれば代金としては相応だろう。
　何が起こり、何に恐怖したかを、吹聴してもらおう。

（……すっかり染まっちゃったなぁ）

　ぼんやりと手を見て思うのは、無論、返り血のことではない。
　旅立った時から、必要とあらば手を汚し、血に染める覚悟はできていた。
　しかしこんな未来を想定したかと言えば、それはない。
　できればアムルイは、もっと上手くやりたかったのだ。

（アイサにも、化け物だなんて言われちゃったっけ）

　道を違えた友のことを思う。
　目指す理想こそ違うが、アムルイは今でも彼女のことを友だと思っている。
　敵が友であってはならない、などという法もない。
　だからアムルイは、彼女に胸を張れる友でありたい、胸を張れる敵でありたいと思う。

（そうだ。だから化け物だって言われても、私はこのまま進むよ）

　惑いながら、迷いながら。
　問いを得て、答えを得るために。

　アイサ。
　君へまた、問いかけに行こう。

笑いを押し殺したような抑揚で言葉を繋ぐ。
ああ、哀れな奴だ。
なまじ潔癖であるばかりに、拭えなくなった汚れを綺麗と言い張るしか無いのだ。

ならば教えてやらねばなるまい。彼女の踏み入れた世界が、どれだけ汚いものであるのかを。
それが先人の務めというものだ。