向き合うと決めた。
　正逆の道は、鏡写しの自分だから。

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　灰色の空がある。
　空は朝から曇り模様で、いつ雨が降ってもおかしくないだろう。
　その下にある城下町でも、雨に備えてのことか、風に揺れる洗濯物の数は少ない。
　四人が集ったのは、そんな朝のことだった。

「——じゃ、早めに女神の園に向かおう。
　事前の情報によると、あそこには————」

　宿を出る前に、リアスが今日の計画を伝える。
　何事もなければ、そこで敵と戦うことになる。
　雨に備えて、出発は予定よりも少し早くなっていた。
　そしてリアスが、次に蛍が宿を出て——アムルイは声をかけた。

「——待ってアイサ。
　少しだけ、話をしていかない？」

　声に足を止めたアイサは振り返り、柔和な笑みを浮かべて首を傾げた。

「あら〜？　急がないと怒られますよ〜？」

「うん。だけど次の機会が、いつあるか分からないから」

　アムルイは王を廃した国を目指す。
　アイサは新たな王の擁立を目指す。
　正逆でありながら、今も仲間で在り続けるのは奇妙なことだろう。
　だからこそ、ここで相対しておかなければならない。
　この奇妙な関係は、いつ崩れてもおかしくないほど、危ういものだから。

「アイサは——もう、知っているよね。
　私が何を望んで、何を目指すようになったのかを。
　そしてそれが、相容れるものではないことを」

　確認の問いかけに、アイサは薄く笑みを浮かべる。
　肯定の意思表示だ。
　ならば、

「私は自分が絶対に正しいって言い切るわけじゃない。
　だけど、誰もが幸いになれることを目指したい。
　そのために何ができるかを——皆で考え、自ら選べる国を目指すよ」

　これが自分の立ち位置だと、アイサに示す。
　その道がどんなに険しくとも、自分はそこを目指すと選び、決めたのだ。
　だから次は、アイサの立ち位置をこそ確かめなければならない。

「アイサの考えも、分からないわけじゃないよ。
　私のやり方で上手くいくなんて保障はない。
　だったら、上手くいってたやり方——新しい王を擁立する考えも、正しいと思う」

　どちらが正しくて、どちらが間違っているという話ではない。
　それぞれの正しさがあり、それぞれの間違いがある。
　けれど絶対的な違いが一つだけある。
　アムルイは己の立ち位置を示した。
　何故それを目指すのかと、理由を示した。
　けれど、アイサは。

「——ねえ、アイサ。アイサは英雄を探していると言ったよね？
　どうして英雄を探すのか、聞かせてもらってもいいかな」

　アムルイは思う。
　自分達の道は正逆だと。
　だが、それは見せかけではないのかと疑う。

「アイサは——英雄を作るために、新たな王を擁立しようとしているんじゃないの？」

　問いかけて、答えを待つ。
　必ずしも答えてくれるとは限らない。
　だが、この一点だけは確かめなければならなかった。
　見誤ったままでは、相対することもできないのだから。
　

去っていくアムルイにかける言葉はついに出てこなかった。
いつも通りの態度、いつも通りの笑顔。アムルイはどこまでも彼女らしかった。
だからこそ彼女が本気なことも、その目標に向かって真っすぐ進んでいくことも容易に想像がついた。

だが、その道についていくことはどうしてもできない。
ゴードニア王の娘としての誇りが、女神の園で占星術師から聞いた言葉が、アムルイの目指す世界を否定する。