幼い頃の僕にとって、世界はとても小さなものだった。


はじめは屋敷とその周辺だけ。
そこにいる人は家族と使用人のみで、その中心にはいつも兄がいた。

少し大きくなって、僕の世界がほんの少し広がった後も、僕の世界の中心は兄のままだった。

兄が神聖騎士団に訓練に行くようになり、一緒に居られる時間が減ってしまっても、
僕の世界の中心はやっぱり兄のままだった。

神聖騎士となる兄を助けるべく、神官になるために神殿の門を叩いた。
兄が神聖騎士団に、僕が神殿にいる事が多くなって、一緒に居られる時間が更に減ってしまっても、
僕の世界の中心が変わることはなかった。

全ては兄のために。
昔はすぐ側で見ていた兄の顔を遠くからしか見られなくても、それでよかった。
兄が立派な神聖騎士になるのを影で支えていられれば、それで満足だった。


『兄のためだけに生きるなんておかしい』
『お前はお前のやりたい事を自由にやっていいんだぞ』
何度そんな事を言われたところで、僕の心は変わることはなかった。



故郷から離れた異世界。
神聖騎士団の一員として、今、僕は此処に立っている。

本来ならば兄が立っていたはずの場所。
今、此処にいるのは兄ではなく僕で、本来いるはずだった兄の姿はどこにも見えない。

それでも、僕の世界の中心は変わることはない。

全ては兄のために。
僕は兄のかわりに剣を取り、神聖騎士としての任務を遂行する。

兄の代わりになんてなれるわけがないのはわかっていても、僕にできる事はそれしかないのだから……。

　　　　　　　　まるで鬼の首とった、とでもいいそうな表情だ。
　　　　　　　どちらかと言えば、このロクローという男が犯罪者的に見られた結果かも。

　　　　　　　　ならば。
　　　　　　　それを与えられなかった父母と自分は、やはり咎人だったのだろうか。
　　　　　　　首にかけた小さな十字を、服の上から握りしめる。

　　　　　　　　そう言って苦笑いを浮かべた。