—カンカンカン
—ジュッ
—カンカンカン
—ジュッ

「…ふうっ。」

鉱石を加工する手を止め汗を拭う。
パワーストーン…通称PSと呼ばれ、この世界では通貨の役割やこれを用いた加工なども行われているらしい。
私は今、間借りした加工場で仲間から依頼された装備品を造っている最中だ。

「楔石が終わったから次は…アルミ缶？」

おおよそ装備品の材料とは思えない代物だけど、材料の持つ特殊能力をパワーストーンに混ぜて加工するだけなので特に問題はなかったり。
ただ、あくまで私はこうしているというだけなのであまり真に受けないように。

「うう…衣かぁ、あまり裁縫は得意じゃないけど…やるしかないか！」

覚悟を決めて加工用の材料とパワーストーンを取り出すとアルミ缶をハンマーで平らに潰していく。
次にパワーストーンを必要分握り素材を思い浮かべる。

「えーと…僧兵の衣…衣…布…」

その瞬間私の手の中でパワーストーンがほのかに発光し始める、パワーストーンに意志が込められた証だ。
それをさっき潰しておいたアルミ缶の上にばら撒いていく。パワーストーンはアルミ缶に触れた瞬間眩く発光すると、一反の布へと姿を変えた。
予め泥棒犬さんから計らせてもらっていた型紙を元に鋏で布を切り分けていく。切る作業は好きなのだ、切る作業は。

「……」

ゴクリ、とつばを飲み込むと針と糸で布同士を縫い合わせてゆく。
針を糸と結び、絡ませ、針を潜らせ、こっちから出して…えっと…

「いたっ…」

思わず自分の指を刺してしまう、このままだと布が汚れてしまうので作業を中断して塗り薬を探す。と—

「やっほー、ルアちゃん。調子はどうかな？」

近くで合成の作業をしていたアウラルさんが顔をだす、何故か大量の卓袱台を抱えているけど気にしないことにしよう。

「あまりうまくはいってませんね、やっぱり裁縫はどうにも苦手です。」
「あはは、裁縫は縫い方や結び方やらで何かと難しいからね。」

アウラルさんと他愛もない話をしつつバックパックから塗り薬を取り出す。

「あれ、指でも怪我しかのかな？」
「だ、大丈夫です、これくらいなんでもありません。」

アウラルさんが目を輝かせながら近寄ってくる、というか近すぎて息遣いまで聞こえる。

「んー…でもバイキンが入ったらいけないし…よしっ、おばさんに任せなさい！」
「え、ちょっ…アウラルさ…っ」



アウラルさんは突然私の手を取ると怪我をしている指先を何のためらいもなく口に含んだ。

「〜〜〜〜〜ッ！！！！」
「ん…ぷぁ…っ…これでよしっ、と。」
「あ、あのあのえっとあのこれはえっとそのあのあうらるさんえっとこれはあの」
「…？アルラウネの唾液には治癒作用があるからルアちゃんの怪我が早く治るようにって…嫌だった？」

アウラルさんが舐めとった指先の怪我は確かに血が止まってすでに塞がりかけている。
だけどそんなことはどうてもよくて私の頭の中ではアウラルさんと出会って旅をして今までのことが目まぐるしく流れていた。

「ルアちゃん…？熱でもある？」
「ひゃわっ！ら、だいじょうぶれすっ！！！ありがとうございます！！！」

私の返答にアウラルさんは少し訝しげな表情を浮かべていたがすぐに元の笑顔に戻って作業の途中だった布と裁縫道具を手に取る。

「裁縫くらいなら自分の服の修繕で慣れてるから手伝えるよ、これとこれを縫えばいいんだよね？」
「い、いえっ、アウラルさんも忙しいでしょうしそのっ、私だけでもっ！」
「だーめ、おばさんが手伝うって言うんだから素直に受けなさい。」

ちょっと怒ったような、でもイタズラを思いついた子供のような笑顔でアウラルさんは布同士を縫い合わせてゆく。
こうなったら止めても無駄なので私も残りの作業を終わらせるべく次の材料とパワーストーンを取り出す。


「ルアちゃん。」
「はい？何でしょう？」

お互いに作業の手を止めず、口だけで会話をする。

「…私達は、仲間だから。」
「…？」



この時の私には、アウラルさんの言いたいことがわかりませんでした。

わりと切実なのでした。

もしかして、普通にお話したりするのかもしれない。
そんなことをちょっと思ってるアムルです。

ルアさんと顔を合わせたりしたら、うっかり退治されそうで、と溜息をついて。