水浴びの邪魔をしてしまったらしく、突如奇声をあげて襲いかかってきた兵士を再び水の中に(強制的に)戻し、逃げるように足早に水辺を離れた。
なんだか王都に来てからというもの、水辺はあまりいい覚えがない。

「うう〜ん、水難の相でも出てるのかしら〜…」
「私も水は苦手だ。うむ、我らの共通の弱点、そのうち何かで補わねばなるまいか…」
「やっぱりこの間のマーメイドさんとは仲良くなるべきだったのだわ〜」

ゴレムの頭の上でのんきに昼寝を続けるケット・シーに、怨み混じりの視線を送る。
水の音が遠くなり、道はいつしかほとんどけもの道に近い荒れようだ。
かろうじて人の通った跡がある。おそらく同じ一揆参加者が通ったのであろう。
低木の枝が両脇から道を圧迫していて、背の低いメルメルとゴレムは完璧に木陰に埋もれてしまって非常に歩きづらい。
だが、一方ではこれでいいのかもしれない。危険な人物との遭遇を避けられるからだ。

途中通ってきた道には、あちこちに危険人物の似顔絵が張られていた。治安の悪い王都につけくわえ、一揆の参加者同士の諍いも絶えないと聞く。
壁にべたべたと無計画に張られたそれは、あまりに枚数が多すぎて、手配書を１・２度見かけた程度では、本人に出会ってもピンと来ないだろうなと思う。

前を歩くゴレムが払い切れなかった枝がピシッと跳ね返って、頭の上の猫をはたき落した。

「ぅにゃにゃにゃっ！？なにごとっ？」

寝ぼけた猫がわたわたと周りを見渡しているのを意に介せず、ゴレムがメルメルへ声をかけた。

「む、主よ、藪を抜けるぞ。この先また砂地に突入するようだ」
「あらあら、もしかして道が違っただけで、こないだと同じあたりに出るのかしらね〜」

唐突に途切れた藪を抜けると、その先は先日と同じような障害物の少ない荒野が続いている。


ふいに視界の端を、黒い何かが猛スピードでよぎった。

「っ！？」

反射的に身構え、そちらに視線をやるが、何も見えない。

「見間違い…じゃあない気がする…」

一瞬、ケット・シーかと思ったが、見ればまた懲りもせずゴレムの上で丸くなっていた。
ならば、危険なものかもしれない。
この先は平坦な大地が広がっているとはいえ、ところどころ大岩や枯れ朽ちた大木、地割れで出来た段差などが見える。
しばらくは警戒して歩いた方がいい。

「ハニさん、グラオちゃん、今なんか黒い変なのがいた気がするの。気をつけてね」
「あれ、ぼくきづかなかったや…ねぼけてたかな」
「こら駄猫、シャンと起きておれ！すまぬ主、私も索敵に集中しよう」



そして、それからいくばくも歩かぬうち。
熱気に揺らぐ先を、『ソレ』はソロリソロリと進んでいた。

障害物もない、砂地のただ中で、その黒ずくめの装束はとても……目立っていた。

戸惑いつつも、向けられる強い殺気に気押されるように、武器を構える。

シャーーッ、と威嚇するケット・シー。

黒猫の先導で、一行はその場から離れた・・・・・・