───トーヤに一度、聞いてみたことがあった。

あなたのような身分のあるひとが
魔王討伐、という危険な戦いに、自ら赴いてしまっても良いものなのか。
大事な身体、なのに…って。
……まぁ、あっさりと一蹴されてしまったのだけれど。

「そういうのは、デイルがやればいいんだよ。」


───国には二人の王子がいた。
第一王子トウスティヤ、第二王子ディルケル（トーヤはデイルって呼んでた）

兄が剣術一辺倒で学術はからっきしだったのと対照的に、弟は勉学の才に秀でていて
政治に関してもよく勉強し、理解を示していたそうだ。
性格も、燃え上がりやすく思い立ったら一直線、の兄と相対的に、弟は静かで温和。
弟を王に望む声も多く耳にしたし、トーヤもそれで構わないと思っていたんだって。

おれと違ってよくできた弟なんだ。って、よく自慢されたっけ…。
仲のいい兄弟なんだなぁって微笑ましく思ってた。

でも、当人達の意志などまったく介さないところで当たり前のように派閥があり、
当たり前のように権力争いが行われていた。
諍いのダシにされて、二人でうんざりたしてたって…
よくある話だろ。と自嘲気味に笑ってたけど…

「おれはこっちの方が性に合ってる。
　だから、王にはデイルがなればいい。
　……周りもそれを望んでる。」


───それは自分に言い聞かせているようにも聞こえて。
…だとしても、
もし魔王討伐が成れば、本人がどう思おうと、トーヤが祀り上げられること、
それを快く思わない人間も当然いただろうこと、は想像に難くなかった。

………