「死んでしまったようだね」
「死んでしまったようだね」
「面白くないね」
「つまらないね」

狛犬二匹が左右対称に並び無感情に話す。

「僕たちの観測もこれでおしまいか」
「僕たちの観測もこれでおしまいだ」

彼らは遣いの者。
その主の悦びの為だけに存在する。

「僕たちもなぐり殺されるのか」
「僕たちもなぶり殺されるのか」

前回、自由という拷問を受けさせられた女を観測していた狗は理不尽にも主に殺された。
狛犬二匹は左右対称に並び無感情にそれを眺めていた。
細切れになるまでそれを眺めていた。

「誰か来る」
「誰か来るね」

背の高い妙な格好をした男とも女ともみえる容姿の者が来た。
狛犬二匹が左右対称に姿勢を整えるところを見ると彼らの主かもしくはそれに準ずる誰かなのだろう。
その者は口元に笑みを浮かべ目は笑わないまま彼らに伝言する。

「どうやらここでは死という概念は無いようだね。
だから君たちにはまだまだ観測を続けて貰うよ。
花が散る、とはまたまたご主人好みの『設定』だねぇ、面白いよ。愉しいよ。ふふ」

ガシャン
太い鎖に繋がれた大きな刃物の落ちる音だった。

「ただね、それで死ななかった事についてご主人がご立腹なんだ。理不尽だね。理不尽だよね？
でもそんなふうに扱われるのも君たちの仕事でしょう。」

まるで演舞のようにその者は鎖で弧を描き振り下ろされた刃は彼らの背中に左右非対称の傷を幾つか刻んだ。
狛犬たちはじっと目を閉じそれを受け入れている。

それまで笑みを浮かべていたその者の表情は消え、瞳には悲しげな色が浮かんだ。
深々とお辞儀をする。
狛犬たちはじっと目を閉じそれを見ていない。

「行ったようだね」
「行ったようだ」
「痛い？」
「痛い？」
「痛くない」
「痛くない」

彼らは当然のように互いの傷を舐めあった。

「観測は続くようだ」
「観測は続くようだね」

遥か遠くに見えるのは、少女と獣。

「人間と、獣　のくせに」
「人間と、獣　のくせ　に」

彼らは牙をむき出し酷く邪悪に嗤った。