シュウスケの拳が、成体ローバルの胸部を捉える。

ローバルの姿となったシュウスケの身体能力は人間時のそれを大きく上回るが、

身に纏う装甲は基本強化外骨格のみであるため、致命傷を与えるには至らない。

そのためシュウスケは、DFDの力で変身したサイネルのアシストをするように立ち回っていた。

ローバルが声を上げると、後方から複数の影が浮かび上がってくる。

影は形を成し、何体もの成体ローバルが現れた。

5体、いや6体、7体・・・。　無数に現れるローバルが、シュウスケとサイネルを襲う。

成体ローバルは、知能をも持つ。


その人数差により、シュウスケ達はすぐに分断されてしまい、1体多となってしまう。

複数体による連携攻撃をかわしきれず、シュウスケは大きく吹き飛ばされる。

攻撃をまともに受けてしまったシュウスケは、そのまま木に激突。ダメージ過多により基本強化外骨格は解除されてしまった。

攻撃を受けた腹部を抱え、立ち上がる事ができない。

ローバル達が、距離を詰めてくる。

ここまでか…

シュウスケは、ローバルが腕を振りかぶったのを見て、反射的に防御の姿勢を取り、目を閉じる・・・

突如巻き上がる突風と業火。


そして、シュウスケの体が光に包まれる。

シュウスケの前に現れる、複数の光。

この世界に来てから、行動を共にしてきた仲間達の声。

ずっと一緒に戦ってきた彼女達の姿が、そこにあった。

立ち上がり、もう一度フェアリードライバーを起動する。

フェアリードライバーのバックル部分を展開すると、電子音と共に穏やかな光を放ち始めた。

フィリアスから宝玉を受けとり、バックル部分にセットする。
シュウスケの全身に基本強化骨格が瞬時に転送され…フィリアスの風の魔力が全身を巡る。

頭部まで届いた魔力が輝き始め、光が巡ったところから順に、風の装甲が転送されていった。

マスカレイダーフェアリー、フィリアスフォーム。



暗夜の森に、緑色の輝きを纏う風が流れ始めた。

手の甲の円から、空中に浮かぶ光のリングを発生させる。
それをローバルへ向けて射出すると、リングはどこまでもローバルを追いかけてゆく。

その隙に光のマスカレイダーは溢れ出る黄金の粒子を解き放ち、エネルギーをシュウスケのバックルに流し込む。
力を借りる相手のいないシュウスケの身体能力を、一時的に底上げするだろう。

今まで一度も触れなかったボウガンの弦を引くと、赤い液体のつまった試験管のようなパーツが露出する。
それを外すと、脚にマウントしたケースから似たような試験管を取り出す。
こちらの方は、赤い液体が固体になっている。
試験管をセットし直すと、ボウガンから合成音声が流れだす。

二体のローバルに赤い光の矢を撃ち込むと、それは形を留めながら残留する。
もしこれに強い衝撃を与えたのなら、炸裂するに違いない。

全身を巡る生命力を一気に開放し、光の力があふれ出す。
暗夜に輝く星のようにサイネルは空へと飛翔し、相手に狙いをつけ…そのまま一筋の閃光となって急降下する！

天駆ける流星の光を、あえて名付けるとしたらこう呼ぼう。

ファムアルフート！！

掠れ形にならずとも、言葉に込めようとした意志は存在する。
振舞いに、瞳に、僅かな所作に。
シュウスケ君の想いを確かに受け止め。

通信を受けた時に飛び込んできた声は赤い機人のそれでなく
シュウスケ君の相棒達の声。

フィリー達に状況の説明をした後に聞こえてくる珍しく起こった様子のフィリーの声に苦笑しながら、
不意に宵闇に包まれた森の奥へ視線を向け、言外に感じた気配の正体がなんなのか、
通信の向こうで叫ぶフィリー達の声で理解する。

周囲に生まれる気配、それとは別に、不意に頭上で生い茂る木々の枝葉を突き破り、一抱えほどもある影が土煙を上げ落下する。
噴煙の中から短い足で歩いてくる影。
それはまるで昔流行ったブリキのおもちゃが動き出したような様相のロボット。
その手には、以前エリオットがシュウスケに見せた変異したネクタードライバーが。

ブリキが投げ放ったドライバーをキャッチし、シュウスケに背を向ける。

自分にはヒーローは向いていない。そう言い続けた男の腰にドライバーが巻かれる。

ばさっと、何かが羽ばたく音がした。
それに気づくと、フィリアスとシュウスケは空を見上げることだろう。

イグニとリータが空を飛べるのはともかく…。
エシャロットにも天使の羽根が生えていたのである。
しばらく見ないうちに何があったのだろうか…。

エシャロットは、フィリアスとシュウスケの姿を確認すると、華麗に目の前に着地した。

そういいながら、羽根をばっさばっさしつつ。

前に、二人に少しだけ話した悪魔の話。
いよいよ決着をつけにいく様子のようである。