「すみません、少し遅れてしまいました」

襖をあけ部屋の中を見ると無表情な男が一人胡坐をかいていた。
胡坐をかく、といってもその背中は鋼の柱でも入っているようにまっすぐで。
彼の表情も金属の様に無機質だ。


「なぁに気にするな、突然呼び出したのはこっちだ」


軽く礼をして彼女は部屋の中に入る。
音を立てず歩き、男と少し距離を取って座る。


彼女が座り向き直ったのを見て彼は話を始める。


「なんだかずいぶん久しぶりな気がするな」


彼は無表情のまま、少し大きめの声で彼女に話しかける。


「実際久しぶりです、最後に会ってから３年近くたってますから」


彼女は彼が無愛想なことを知っているらしく、彼の言葉におびえることなく当たり前のように返す。その上口元は少し笑いを含んでいる。


「そうだったか・・・ああ、そうだったな」


彼は彼女の成長してきた時間を見定めるかのように彼女を視る。


そんな彼の視線を気にもせず彼女は切り出す


「ところで話というのは？・・・まぁ予想はついてますが」


彼女の言葉が吐かれたのと同時に、空気が少し張りつめたような気がした。


「ああ、決定した。それをお前に伝えるために今日はここに来てもらったのだ」


男は表情を変えない、無表情のままだ。
彼女も表情を変えない、彼の次の言葉が分かっているからだ。









「あの子に・・・継がせることになった」





少し気の毒そうに言った彼の言葉は、張りつめた部屋の空気をより一層濃くした。







「そう・・・ですか・・・・・」