私は見ていました。ずっと。
シプソフィラの中は窮屈で、虚ろで、何もなく、私だけが存在していました。
そこから、生き生きと動く『私』を見ていました。
あれが、私の魂の歪み。

ですが、『私』は、とても楽しそうでした。
楽しそう？ 私は、楽しかったことなんて……

あっ。鬼子様。
鬼子様と一緒に芸をした時は、とても楽しいと思ったのでした。

生を謳歌する『私』を見て、あれがあるべき姿なのかもしれない、と諦めていた矢先。
『私』は、シエミさんを操り、モックくんを殺してしまいそうになって。

私は、それが、いやで嫌で堪らなかった。
そんな気持ちになったのは、初めてでした。

ドールのエンブリオがモックくんを庇って消滅してしまった時。
私は、泣いてしまいました。
誰かにアストラルヒーリングをされていたわけでもないのに……
涙は、自分の涙は、暖かくないのですね。

『私』はレイスさんとモックくんに刃を向けて、
そして、敗北しました。
私は『私』に上書きされて、かつて聖女に不要と断じられた全てを、取り戻しました。……私には、まだよくわからないことだらけですけれど。
今も私の底に眠る『私』。彼女の歪みなら、私にはわかります。
彼女も、どうしていいか分からなくなっていたのでしょう。
彼女が一番嫌った、自由を奪うもの。
それに、自身がなりかけていたのですから。