今日も憂鬱な雨が降っている。
椅子に腰掛け、テーブルに肘をつけながらそれをぼんやりと眺める。
決して雷が怖いとか、当たらないようにする為だとか、そんな事ではない。
淹れたばかりのコーヒーがあるからだとか、食事を食べ終えたばかりであるとか……そんなところなのだ。
鼻歌を刻みながらキッチンで洗い物をする相棒へと視線を移し、その姿をぼんやり眺める。
1つ少なくなった左耳のルビーピアス。その名残を確かめるように自分のピアス痕に触れる。
時折相棒の耳から覗き見える小さなソレを確認すれば、内心で「よし」と頷いてまた雨へと視線を戻す。


相棒とのいざこざは、何のかんのすったもんだの末に漸く落ち着いた。
ピアスという名の首輪を着けさせる際にもひと悶着あったが……今ではそれに関しては衝突もせず、穏やかにやっていると自負している。
相変わらず二人とも雨ともなればテンションは下がるが、そんな事は今更だ。

洗いざらいぶち撒けた相棒は、以前よりも吹っ切れたような表情を浮かべる事が多くなった。と思う。
以前にも増して遠慮は無くなり、容赦も無くなった。
その前までの腑抜け振りからすれば随分と気持ちがいいものになったが、容赦が無い分辛辣だ。
まぁ、そんな事も今更であるし特段気にすることでもない。
ただ、気になる事があるとするならば……


「これからコイツが何をしたいか」だ。


母親への復讐は諦めているのか、いないのか。
このままネクターの事件を調べ続けるのか。
エトセトラetc……
悶着が終わったというのに、この相棒はまだ俺の頭を痛めさせ続けている。
憑き物が落ちたような顔も、何か重圧から脱したような素振りも、何もかもが今や俺の悩みの種だ。


(よぉ、ブラック。お前ちゃんと前に進めてんのかよ。浮かれて転ぶんじゃねぇのか？)
(よぉ、相棒。お前はこれからどうしたいんだ。勿体ぶってねぇで吐いちまえ)


何度も頭の中で繰り返し言い続けている。
口に出すのはどうにも締まりがない。柄でもない。

ついでに言えば、困惑している。

今まで誰一人として執着なんてしなかった。それが今やこの有り様だ。
後にも先にもこんな事は一度きりだ。これが最初で最後だ。
責任という言葉は大嫌いだが、この場合は使う事を許してやる。


(よぉ、相棒。お前は責任を取らなきゃならねぇ。俺を変えた責任はとんでも無く重いんだ)



雨はしとしとと降り続ける。
俺の憂鬱を知らない相棒が此方に顔を見せたなら──
ゲームの一つでも吹っ掛けてやろう。


「よぉ、相棒。ゲームの時間だぜ？」


こんな言葉なら容易いのに、と相棒に知れぬよう小さく笑った。