最近、相棒の様子がおかしい。


元々胡散臭いヤツではあったが、ここ数日は尚更だ。
タイミング的に、恐らく数日前に俺が怪我をしたのをきっかけに
胡散臭さというか、妙にうわの空になる事が増えた気がする。

そもそも、そのきっかけと思わしきトラブルに関しても
いつにも増して“状態がひどい”とさえ思った。
大概は塞ぎ込んでいるんだか知らないが、とにかく何をするにも億劫といった風だというのに
今回に関しては問答無用で殴りつけてくる始末。(おかげでイケてる俺様の顔が微妙に腫れた)
俺が怪我をするのは今に始まったことじゃないが、どうにもお気に召さなかったようだ。

(俺だって、怪我したくてしたんじゃねーっつーの)

口を尖らせて、視線の先にいる相棒へと心の中で文句を言う。
おかしな事と言えば、今の相棒の状態もそうだ。
この間の“おしおき”で掻っ攫ってきたリストを、いつものような気怠げな表情で眺めている。
どうやら俺が怪我で寝込んでいた間も熱心に読み込んでいたようで、
リストには赤線やら注釈やらが書き込まれているようだった。
気になって覗き込もうとすれば


「いま集中してるんだ。悪いけど、向こう行っててくんない？」


と、にこやかに笑って俺を遠ざけるのだ。
俺にしてみれば意味が分からない。
それは俺が噛んでもいい事だろ？何しろ命懸けで奪ってきたせっかくの戦利品だ。
なんの説明もなしに「待て」をされたのでは納得がいかない。

(なぁに焦ってるんだっつーの……目の下の隈、気づいてねぇのかよ)

時折眉を寄せたり、頭を振ったりする相棒の姿にため息をつく。
別に、頼りにされたいとか思うわけじゃあない。まぁ、してくれるならそれはそれで良いが。
とにかく。一人で突っ走られても正直なところ、迷惑なだけだ。
俺の調子が狂いっぱなしになってしまう。


元は確かにお互いに一人でバラバラだった。
でも今は違うだろ？俺とお前で『最強のブラックジャック』じゃねぇのかよ。


腹の中でじわじわと、何とも言えない苛立ちが降り積もっていく。
机の上で腕を組んで、そのまま突っ伏して。思い切り口を尖らせて、また相棒を見る。
今度はその視線に気がついたのか、相棒が顔を上げ……──俺の顔を見るなり苦笑した。
俺はこれも気に食わない。
何となく……あくまで何となくだが、まるで子供扱いされているようでムカっとする。
随分と昔に戻ったようだ。ヘラヘラとした笑顔を浮かべながら、
「ここから先は入ってくるな」と言わんばかりに線を引く。
つい最近までそんな事は鳴りを潜めていたを思ったが……ここに来てどうやらぶり返したようだ。

「どうしたんだよ、ジャック。ガキみたいにあからさまな膨れっ面浮かべて」
「ああ？俺がどんな顔してよーがお前に関係ねーだろ」
「ま、そうだけどさ。そうも見つめられてちゃ居心地悪いだろ？」
「ケッ、知るかよ。……んな事より飯。腹減った」
「はいはい…まったく、ジャッキーちゃんったら仕方ないなあ」

冗談めかしたように笑いながら、相棒は席を立ち、厨房へと姿を消していった。
……手には例のリストを持って。
俺はまた、机へと突っ伏し長い長いため息をついた。


(なあ、ブラック。お前一体、何考えてんだよ。わけ分かんねぇっての)
(お前のこった、どうせよく分かんねぇモン勝手に背負い込んで、それでもクール気取ってんだろ？)
(隠したって分かるんだぜ。長い付き合いじゃねぇか。相棒じゃねぇか)


厨房からは何かを焼く音と、香ばしい香りが漂ってくる。
どんな顔で作っているのかと、椅子の背もたれに体重を預けながら息を吐く。
俺の心中を察したかのように、窓の向こうには曇り空が広がっていた。

＿人人人人人人 人人人人人＿
＞ 皮むきだって言ってんだろ ＜
‾Y^Y^Y^YY^Y^Y^YY^Y^Y^Y^Y‾


そんな二人の視線を気にすることもなく、
ジャックは得意げに笑い声を上げた。

大人しく撫でられつつも、身を固くし、その表情はかなり困惑しているようだ
しかししばらくすれば、頭に乗せられた大きな手を振り払おうとする

くちばしにＰＳの入った皮袋をくわえている。