ぱら…という微かな音にはっと意識を引き戻されて、一拍の後、自分がうたた寝をしていたのだと気付く。

足元には散らばった紙束——例のリストだ。どうやら読み込んでいるうちに眠ってしまったらしかった。
床の上に散乱するそれを拾い集めようと手を伸ばすが、椅子に座ったまま寝たせいなのか、
はたまた疲れが溜まっていたのか、体が鉛のようにひどく重い。鈍く頭痛もする。
ままならなさに長く溜息を吐いていると、部屋の前を通りがかったらしいジャックがひょいと顔を覗かせた。

「よお、ひでえ顔してんじゃねえか」
「ああ、うん…ちょっとうたた寝しちゃってさ、寝起きのせいだよ。恥ずかしいからあんまり見ないでくれよな」

おどけたような口調でそう返せば、「ばっかじゃねーの」と笑われる。

「なー、メシ食いに行きがてら一発当てに行こうぜ！　最近女に聞いたんだけどよ、この辺にある店で
夜になると賭けカードをやってるらしくて……」
「ごめん。今日は行けない」

遮るようにそう言えば、それまで笑顔だったジャックの顔から表情が消えた。
こちらを見る目が途端に剣呑なものになる。

「…今日『は』じゃなくて、今日『も』だろ。てめぇ、こないだから何コソコソしてやがる」
「コソコソなんて。人聞きが悪いな、行けないのは本当に野暮用があるからってだけだよ」

不機嫌そうな声にはわざと気付かないフリをして、身を屈め紙を拾い集める。
頭上で大きな舌打ちの音が聞こえて、俺はそっと苦笑いを浮かべた。
こんな風に、ジャックは思っていることをまるで包み隠さない。
だから、特に最近隠し事ばかりの俺に対しては相当苛立っているのだろう。


（でも、言えない）


「…じゃあな。帰りはたぶん朝になるから、悪いけど食事は一人でとってくれ。肉だけじゃなく野菜も食え。
外に出掛けてもいいけど、下手な騒ぎは起こさないでくれよ。わかったな、ジャッキーちゃん？」

からかうようにそう言って身を翻す。——顔を合わせないように。
背中にイライラとする視線が突き刺さるのを感じたが、矢張りそれにも反応を返さず、俺はそのまま家を出た。

揃って笑っている二人に、一人顔を曇らせている。

ジャックの大きな手で頭を撫でられ、ふいに涙が頬に伝う。
頬を手の甲で拭った後、頭を下げた。

…夜の闇は苦手だ。暗くて、誰もいなくて、さみしくて。心細い。
あの人たちの明るさで、怖くはなかった。

一人残された後、静かな空を見上げた。
早く帰ろう。そして、ちゃんと謝らなきゃ。心配掛けてごめんなさいって。

ここ最近ですっかり口数の減ったブラックは、隣を行くジャックと言葉を交わすこともなく
黙々と歩みを進める一方、物思いに耽っているようでもあったが
木立の隙間、前方に現れた数体の影に気付くと眉を顰めた。

※節分の掛け声ではありません。

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