練習試合を終え、その場に蹲るようにして座り込んだシノの毛先を、つんと引っ張る小さな手指があった。

「シノ、わたし、前言撤回するわ」
「……何の話かな」

　ふん、と目の前で胸を張っているらしい小さな妖精の、見えてはいないけれども恐らくはぴんとつり上がっているであろう眉や目尻を瞼の裏に浮かべながら、ぽそりとシノは言い返す。

「そうね、何年前かしら。10年くらい前かしらね？」
「……うん？」

　何の事だろうと反射的に聞き返したのだが、ついさっきの話ではないらしい。
　ゆっくりと顔を上げると、眼前にはやはり、頭の中で描いていた通りのポーズをした相棒——マリアがいた。
　つぶらな碧眼は、　撫で気味の肩にかかる新調されたローブと、そのローブを作ってくれたシャラとの間を行ったり来たりしている。

（さてはて、一体どうしたのかな）

　どうやらシャラの言動はマリアの性格にあわないらしく、これまでの道中でも何かにつけマリアは文句を言っていた。勿論、喧嘩と言う程大それたものではない。
　まさかまた彼に対していちゃもんを付けだすのだろうか、困るなぁ、マリアがちょっと短気なだけだと思うんだけどなぁ、と首を傾げれば、フードの縁を飾る鱗飾りがしゃらしゃらと音を立てた。

「やっぱりね、適性には従うべきよ、シノ」
「……え？」

　その音があまりにも涼やかで、練習とは言えどもこてんぱんにのされ、それなりにへこんでいた心身にしみいるようで、そちらにばかり耳を傾けていたのがいけなかった。
　言葉の意味をうまく理解出来ない。何を言っているんだこの子は。


『シノの適性は、召喚とは違うの。もっと、なんて言えばいいのかしら——。
　もっとシンプルなもののはずだわ。
　高速射出…かしら…。自分の力のね』
『つまり、遠距離射撃系、と言う事かい？
　僕にその手のものは向かないよ、マリア』
『適性は、本人の意思には関係ないものだからね。勿論、あなたが適性とは異なる道を選んだからこそ、わたしはシノに会えた訳だし』

　そんな、学生時代にかわした会話が、ふっと脳裏によみがえる。

「……え、ま、まさか……？」

　思い出したものの、つまりどういう事かいまいち理解しきれていないシノの、その脳漿が詰まった額を指でついて、小さな小さな少女はぴしゃりと言い放った。

「シノ、あなた、弓を持ちなさい」